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ソロー「市民の抵抗」

市民の反抗―他五篇 (岩波文庫)

市民の反抗―他五篇 (岩波文庫)

  • 作者:H.D.ソロー
  • 発売日: 1997/11/17
  • メディア: 文庫
 

岩波文庫のH.D.ソロー『市民の抵抗』の表題エッセイを読みました。1849年に発表されたもののようです。

ソローは、非道な政府より自らの良心に従えと書いています。

私の考えでは、われわれはまず第一に人間でなくてはならず、しかるのち統治される人間となるべきである。(略)私が当然ひき受けなくてはならない唯一の義務とは、いつ何どきでも、自分が正しいと考えるとおりに実行することである。(12ページ)

 法律への過度の尊敬から生じる、ありふれた、しかも当然の結果がどんなものであるか知りたければ、大佐、大尉、伍長、兵卒、弾薬運びの少年兵、そのほかありとあらゆる兵士の縦隊が、みごとに隊伍を整えて、丘を越え、谷を越え、戦場へと進軍していくさまを見ればよい。彼らは、みずからの意志にさからい、そう、みずからの常識と良心にさからいつつ前進しているので、行路はひときわけわしく、動悸はひときわはげしくなる。彼らは、自分たちが呪うべき仕事にたずさわっていることをよく知っているのだ。(12ページ)

 ごく少数の者たち、たとえば英雄、愛国者、殉教者、偉大な改革者、それに人間の名に価する人間などが、肉体や頭脳ばかりでなく、良心をもって国家に仕えており、だからこそ彼らの大部分は国家に抵抗せざるを得ないのだ。そこで彼らは一般に、国家からは敵として扱われる。(14ページ)

ソローは、奴隷制度や政府によるメキシコ侵略戦争を不正と考え、人頭税の納税を何年も拒みます。解説によりますと、知り合いの収税吏兼保安官サムに数年分の人頭税の支払いを求められ、「立て替えておこうか?」とまで言われたのに、ソローは拒みました。サムが「このわしはどうすればいいんだ?」と言うと、ソローは「保安官をやめたらいいじゃないか」と応じて怒りを買い、投獄されたそうです。(親戚が肩代わりしてくれて、翌日、心ならずも釈放されました)

 人間を不正に投獄する政府のもとでは、正しい人間が住むのにふさわしい場所もまた牢獄である。

もし収税吏とか、ほかの役人が、あの収税吏とおなじように「だけど、私はどうしたらいいのだろう?」とたずねたならば、私は、「本気でなんとかしたければ、辞職しなさい」と答えるだろう。

日本では、ここ数年、あちこちの官僚が不正を働いています。安倍・菅政権が官僚の人事を握り、いいように忖度させているからです。今は、総務省の接待問題で──これは国家公務員倫理法違反というより贈収賄問題ではないのか──、総務省の官僚が集団記憶喪失になり、半年前の公用車の記録が消えたりしています。役人はやめたほうがいいと思うけど、次から次へと忖度役人は出てきます。出世って余程おいしいのでしょう。

海外を見れば、たとえば、ミャンマーの軍事政権が国民に向けて発砲しています。兵士は自分の良心にしたがっているのか、あるいは、《およそ人間としてではなく、機械として、その肉体によって国家に仕え》(13ページ)ているのか。

毎日のように不正が発覚する政府に対して、私はどう抵抗すればいいのでしょうか。さてさてさてさて。

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余談です──。

ソローは1862年5月に44歳でなくなりました。没後、アメリカの奴隷は徐々に解放されることになります。ソローは草場の蔭でよろこんだかもしれません。

しかし、その後は奴隷はいないのでしょうか。植村邦彦『隠された奴隷制』(集英社新書)には、資本主義には奴隷が必要不可欠であると書かれていました。資本家は奴隷に変わって労働者を搾取しつづけます。いやむしろ、衣食住を提供しないぶん、奴隷よりも安上がりかもしれません。マルクスは資本主義を「隠された奴隷制」と呼んだそうなのです。

資本主義(Capitalism)という言葉が生まれたのは1850年。『資本論』第一巻が刊行されたのは1867年。だいたい19世紀半ばからの社会システムと言えるのでしょう。

ソローも、1854年刊の『森の生活』で、資本主義のことをこんなふうに書いています。

 わが国の工場制度は、人間が衣類を得るのに最上の方法だとは思えない。職工たちの労働条件は、日一日とイギリスの状態に近づいている。これは別におどろくにはあたらない。私が見聞したかぎりでは、工場制度の主たる目的は、人間が正直に働いた金でちゃんと服を着られるようにすることではなく、明らかに会社を肥らせることにあるからだ。(岩波文庫・上巻52ページ) 

隠された奴隷制 (集英社新書)

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  • 作者:植村 邦彦
  • 発売日: 2019/07/17
  • メディア: 新書
 
森の生活 上: ウォールデン (岩波文庫)

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森の生活〈下〉ウォールデン (岩波文庫)

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  • 作者:H.D ソロー
  • 発売日: 1995/09/18
  • メディア: 文庫