狩猟採集民のように走ろう!

狩猟採集民について学びながら、現代社会や人間について考えるブログ

『ギフトエコノミー』

たった100〜200年の間に、産業主義・資本主義は指数関数的な人口爆発を生み、過去にないスピードで環境を破壊してきました。労働者や貧しい国から搾取しながら焼け太りする者がいる一方、弱者はますます弱っています。

私たちは、毎日、宣伝に購買欲を搔き立てられ、まだ使える商品を捨てて新しいものを買ったりします。流行なんて追うから、去年の服が恥ずかしくて着られなくなっちゃう。

「消費してお金が循環すれば経済は成長する」なんて話も聞きますが、買えば買うほど税金(消費税)を取られてもいるわけです。お金を使わない=税金を払わないということは、防衛費倍増や原発再稼働・増設などといった愚策をとる日本政府に対して抵抗の意思を示すことになります。アメリカによるメキシコ侵略戦争に腹を立てたソローが人頭税を払わず投獄されたように、なるべく消費を抑えようと私は考えています。

「買わない暮らしプロジェクト」をやっているリーズル・クラーク、レベッカ・ロックフェラー『ギフトエコノミー』(青土社)は、そんなことを考える私に刺激を与えてくれました。

彼らはプラスチックによる環境汚染などから消費社会に疑問を抱き、2013年、ベインブリッジ島2万3千人の間でプロジェクトを開始しました。ルールは三つ。「ゆずる」「受け取る」「感謝する」です。お金は介在しません。「双子のベビーカーがほしい」「ちょうど捨てなきゃと思ってたの。どうぞ」「ありがとう」……こんな具合です。プロジェクトに賛同した人々がいろんな地域で同じことを始めました。6年後、世界に4千ものグループがあると書かれています。(日本にはないけれど、同じ考え方の「オカネイラズ」というFacebookグループが複数あるそうです)

 ギフトエコノミーは貨幣経済へのアンチテーゼです。人の親切をお金に換えるなど考えられません。(略)「買わない暮らし」の精神では、モノをお金で計らない、そして正直であることが求められます。近所の人たちとモノを分かち合うとき、正直であること、そして隠し事をしないことで信頼が築かれます。そして、信頼こそは千金の値打ちです。

私は、狩猟採集生活など未開社会の本を読んできましたから、資本主義・貨幣経済の外があることを知っています。狩猟採集民は誰かが獲ってきた獲物を平等分配しますし、首長制社会のリーダーはほかの人々に気前よく与えることが知られています。損得勘定は抜きです。みなが独占するようになったり、貸し借りを計算していたら、おそらく人間社会は何百万年も続かなかったはずです(ところが、貨幣経済では損得勘定をしているのです)。無償で譲り合う「買わないプロジェクト」は、人間社会の本来の姿に回帰したといえるのかもしれません。

たとえば、ワシントン州のメンバーである女性マーケッサは、お金も友達も少なく、こじんまりと結婚式をしようとしていました。式で着るドレスが欲しくて、「ベーシックなパーティ用ドレスを貸してもらえませんか」とお願いしました。ドレスを貸すことに応じた女性ロビンはマーケッサの金銭的な事情を知り、同グループに「夢の結婚式の実現を手伝える人はいませんか」と投稿します。7時間後には、会場、カメラマン、映像作家、ガウン、花嫁介添人のドレス、テーブル、椅子、バラ、アジサイ、引き出物、ビュッフェ……なんと、結婚指輪まで提供されたのでした(これも驚きですが、本書の最後に出てくるギフト・エコノミーのグローバルな例は桁違いにスケールが大きい)。

無償のギフトには、知恵や労力や技術も含まれます。たとえば、「食べられないキノコを教えて」や「家具の組み立てをお願いできますか」「フランスから来た手紙を日本語に訳してもらえませんか」でもいいわけです。

ほかにも、消費社会から脱し、金を使わずゴミを出さないアイデアがふんだんに掲載されています。

いずれどこかの町に移住して、小さなコミュニティでモノや知恵を交換しながら資本主義の端っこで暮らしたい。私の今の小さな夢です。