狩猟採集民のように走ろう!

狩猟採集民について学びながら、現代社会や人間について考えるブログ

奥野克己『はじめての人類学』

今月読んだ本、奥野克己『はじめての人類学』(講談社現代新書)。

奥野氏、たくさん本出してるなあ。

マリノフスキ、レヴィ=ストロース、ボアズ(とその弟子のルース・ベネディクト、マーガレット・ミード)、インゴルド──奥野氏はインゴルドの翻訳・紹介者の一人です──の4人の紹介しながら、人類学の歴史を振り返るとともに、これからの人類学の方法について語ります。 インゴルドは読んだことないけど、面白そう。

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レヴィ=ストロースの「冷たい社会」「熱い社会」の概念は有名ですが、改めて奥野克己『はじめての人類学』で再確認しましょう。

レヴィ=ストロースは、1961年のインタビューで、未開社会を「冷たい社会」、近代社会を「熱い社会」と呼びました。さらに、「冷たい社会」を工学的機械、「熱い社会」を熱力学機械にたとえています。

工学的機械とは、摩擦などがなければ際限なく作動する機械であり、熱力学機械とは蒸気機関すなわち汽罐(ボイラー)と凝縮器(コンデンサー)の温度差により作動する機械です。

「冷たい社会」は自分を初めの状態に保とうとするので歴史も進歩もないように見えます。

一方、「熱い社会」はその社会構造からして蒸気機関に似ています。熱い部分と冷たい部分の差がエネルギーを産み出すのと同様に、「熱い社会」は、社会階級の間に生じた潜在的なエネルギー差を利用するのです。時間を累積的連続としてとらえ、過去と現在を単一線上に置いて、進歩の線路をひた走る。

「冷たい社会」は、常に変化に対抗するとレヴィ=ストロースは書いているそうです。ニューギニアのガフク・ガマの人々にサッカー文化がもたらされたとき、彼らはふたつのチームに分かれ、勝敗が等しくなるまで、何日でも続けて試合をしました。

ところが、「冷たい社会」が瓦解すると、その構造が人口変動によって破壊され「熱い社会」に変質します。その社会ではどんどん階層の分化が進み、格差をエネルギー源として生産性が高められる。

──以上。

レヴィ=ストロースと親しい人類学者・川田順造が、南米のナンビクワラ族(『悲しき熱帯』でレヴィ=ストロースが訪ねた人々)に会い、彼らは脱クロノス人間だと言ったのも、「冷たい社会」を意識してのことかもしれません。「熱い社会」を生きるわれわれは時間にとりこまれていますから。

何千万、何億年かけてつくられた化石燃料(石炭、石油など)を掘り出して気体にすることが、時間を一直線に進ませ、格差社会を生んだだなんて、なんだか頭が混乱しちゃいます。現代社会の病理はまさしく蒸気機関とともに始まったのです。

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この本にも出てきますが、フィールドワークをしない人類学者はフィールドワークをせずに文献だけで論文を書く研究者は、安楽椅子の人類学者(アームチェア・アンソロポジスト)と揶揄されるそうです。推理小説の安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)は褒め言葉なのにね。

してみると、学者ではないけど、私は安楽椅子で民族誌を読んでいる人類学ファンということになりますね。むろん、民族誌にも敬意は払われるべきですが。

私も、海外とはいかないけど、そのうち日本のあちこちをフィールドワークしたいなあ。