狩猟採集民のように走ろう!

狩猟採集民について学びながら、現代社会や人間について考えるブログ

『土偶を読む』

なにやら縄文ブームだそうです。竹倉史人『土偶を読む 130年間解かれなかった縄文神話の謎』(晶文社)という本が書店の平台に積まれているのは知っていましたが、これもブームの一環かな、くらいにしか感じていなかったのです。

縄文時代って保守の人が日本スゴイに利用することもありますし、流行り物に背を向ける性分でもあり、私は縄文時代ブームとは距離を置いています。

私はノマド的な狩猟採集社会が好きなんです。縄文時代は狩猟採集社会と教わりましたが、いまでは中期にはクリなどの栽培をしていたことがわかっています。竪穴式住居はもちろん、時代の文化を代表する土偶も縄文土器も定住以降に作られたものです(移動するのに、ああいうものを持ち歩けませんから)。後期には稲作も始まっています。それでも社会は首長制くらいにとどまっていたのではないでしょうか。今よりは暮らしやすかったに違いない。税金なんてないしね。

さて、土偶です。

土偶といったら、女性をかたどって子孫繁栄を祈ったとよく聞きましたが、痩せている土偶があるのはなぜだろう? 宇宙人だという人がいたけど、宇宙人多すぎない? 上を向いて月から精子のもとを溜めていると書いた本を読みましたが、正面向いてる土偶も多いし、大昔の人は出産のメカニズムをそもそも知っていたんだろうか……。

先史時代の人びとはブリコラージュをする(ひとつのモノを複数の用途に使うこと。たとえば、縄文土器のあの姿。ものを煮るだけに使われたはずがない)とレヴィ=ストロースが書いています。土偶だって祭祀からままごと遊びまで使われたかもしれず、一義的に決められないのではないかと感じていました。

ふと『土偶を読む』の口絵を見てみたら、これが画期的なアイデアに基づく本だとわかってしまったのです。口絵をお見せするわけにはいかないので、竹倉土偶研究所のトップページの画像をお借りして……。

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土偶の顔は祭祀用のフィギュアで、土地土地の食べ物を模していると、著者は主張するのです。さっそく一読……なるほど、おもしろい。推理小説のように理路整然と土偶の謎を解いていきます。日本の食の歴史まで学びました。

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面白かったけど、著者の説明を真実だと信じ込んだわけではありません。登場しないタイプの土偶もたくさんありますから、著者の説に都合のいいものばかり採りあげた可能性はあります。先史時代の研究なんて状況証拠の積み重ねでしかありません。つまり、この面白さは短編推理小説の趣です。

著者は人類学者を名乗り、この新説を受け入れないであろう考古学会を批判・挑発していますが、本書も専門書ではありません(カバーの表4[裏表紙]に書かれた分類コード[Cから始まる数字]は、C0021で、これは一般書[0]の単行本[0]で日本の歴史[21]についての本であることを表します。専門書であれば、C3021です)。

とても楽しいけど、あくまで仮説。さらなる研究をお待ちしています。