狩猟採集民のように走ろう!

狩猟採集民について学びながら、現代社会や人間について考えるブログ

『「縮み」志向の日本人』

私は狩猟採集社会と対立させることで現代社会を捉え直していますが、同じように、欧米と比較対象した日本人論をときどき読んでいます。『菊と刀』の新訳も買わなきゃ。

未読だった李御寧『「縮み」志向の日本人』(講談社学術文庫)を読みました。原著は1982年刊。私は80年代後半に大学受験をしたんですが、現代文でイヤになるくらい読まされました。相当流行っていたのでしょう。

冒頭、土居健郎『「甘え」の構造』などの日本人論を《(略)主として英米人との単純比較を通じて得られたものが、かなり見受けられます》とを批判しています。私も、土居のいう「甘え」や阿部謹也の「世間」などは、アジアとも比較すべきだとかねがね考えていたのです。

著者は韓国と比較することで日本人の特質を考えていきます。見えてきたのが、日本の「縮み志向」でした。

 一見、単純に見えますが、「縮み志向」と「拡がり志向」の二項対立は、秩序と混乱、閉鎖と開放、具象と抽象、形式と実質、緊張と弛み、拘束と自由など、あまたの対立体系の象徴を持っていますから、文化の幅広い分野を証明することが可能です。
 もともと収縮と拡散は動詞から作られた概念ですから、力学的なものであり、イデオロギー的な価値を含んでいないため、文化に対してよりニュートラルな記述も可能です。(121ページ)

日本文化の縮み志向には6タイプがあると言います。

  1. 入れ子型──込める
  2. 扇子型──折畳む・握る・寄せる
  3. 姉さま人形型──取る・削る
  4. 折詰め弁当型──詰める
  5. 能面型──構える
  6. 紋章型──凝らせる

俳句、和歌、茶の湯、立花、盆栽、箱庭、扇子弁当から、小さな日本車、電卓、ラジカセ、ウォークマンにいたるまで……言われてみればたしかにモノを小さくするのが日本人は得意です。著者が書くように、漢字の略字を使った文字が平仮名で、一部を使った片仮名であり、漢字文化圏でそんな表音文字はなかったのです。

日本の人間関係が「寄り合い」や「座」であるという指摘も鋭い。現代でも、家、市町村、町内会、自治会などがあり、青年団や講などもあるでしょう。著者は日本の会社を《雇用者と被雇用者が主客一致をなす「座」づくり》(273ページ)だと言います。

寄り合い社会には「内」と「外」という観念が生じます。ウチには優しいけど、ソトには厳しい。本書が書かれたのは日本経済がイケイケの時代で、貿易黒字が国際社会から非難されていました。日本企業はソト(海外)の企業をつぶすのを厭わず、ウチの経済成長を優先したのです。

日本人は縮み志向のときは成功するのに、秀吉の朝鮮出兵、太平洋戦争のころのアジア侵略など、拡大志向に転じたら失敗する。軍事大国が失敗であったように経済大国も先は暗いのではないかと予言する著者は、最後に日本の精神文化を活かせと結んでいます。

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1990年代以降はどうだったでしょうか。たとえば、日本の携帯電話はコンパクトさを競っていましたが、アップルのスマホが登場すると、手許のモニタは徐々に大きくなっていきました。そもそも収縮も拡張もできないOSは日本からは生まれていません。

景気は良くなっていると与党政治家は言いますが、もはや経済大国とは呼べません。日本企業の株価は日銀が買い支えていて、出口が見いだせません。一寸法師がシークレットブーツを履いているようなものです。

エコノミック・アニマルの会社員が一丸として「座」を形成していたのは今は昔。パイが小さくなるにしたがい「座」も小さくなったのでしょうか。ひとつの会社にも正規というウチと、非正規というソトができていますね。

「縮み」志向の日本人 (講談社学術文庫)

「縮み」志向の日本人 (講談社学術文庫)

  • 作者:李 御寧
  • 発売日: 2007/04/11
  • メディア: 文庫
 
「甘え」の構造 [増補普及版]

「甘え」の構造 [増補普及版]

  • 作者:土居 健郎
  • 発売日: 2007/05/15
  • メディア: 単行本