狩猟採集民のように走ろう!

狩猟採集民について学びながら、現代社会や人間について考えるブログ

全力だった安倍首相

8月17日、安倍晋三首相が慶応病院に入っていく様子をメディア各社が報じていると知りました。首相が病院に行く映像なんて珍しい。検査に行くことをメディア各社にリークしているのです。病気をアピールして国会を開かないのを正当化するためか、それとも辞任するのか……? 翌週24日、また黒塗りのクルマが車列を組んで慶応病院に入っていきました。

28日、安倍晋三辞任というニュースが飛び込み、夕方記者会見が開かれました。穿った見方をすれば、通院をリークしたのは辞任の布石だったのかもしれません。6月半ばの人間ドックで持病の潰瘍性大腸炎の悪化が認められたとのことです。今後は食生活に気をつけ、適切な治療をけて受けて快癒されることを願います。

とはいうものの、病気と政治の評価は別ものです。

安倍氏自身が辞任会見で「政治において重要なのは結果を出すこと」と言ったように、病状とは切り離して政治の「結果」について何らかの評価をされなければなりません。

安倍氏と彼の周辺は、7年8ヶ月におよぶ長きにわたり、ウソをつき、ごまかし、政治を私物化してきました。

外交はことごとく失敗。2012年の「もう一度首相に就いたのも、何とか拉致問題を解決しなければとの使命感からだ。必ず安倍内閣で解決する」と言ったけど、拉致問題に成果はなし。北方領土問題には手を出すべきではなかった。原発や新幹線をセールスするのも夢物語でした。 

アベノミクスは成功したのでしょうか。伸びたと主張するGDPは算出法を変えて偽装したと言われているので資料を集めて再検証しなければ評価できません。株価は日銀が買い支えた官制相場です。雇用増は事実ですが、団塊の世代がごそっと定年になったことによる自然現象であり、施策のおかげではありません。問題は、新たな雇用の半分以上は低賃金で不安定な非正規です。儲かるのは官邸に近い金持ちばかり。搾取される多くの国民は干上がり、消費税は倍に跳ね上がりました。

ただひとつ、安倍政権が全力でおこなったのはインチキをすることでした。全身全霊で悪事をはたらいたからこそ政権は倒れなかった。小選挙区の公認を切り札に自民議員の口を封じ、人事を握って官僚の首根っこを押さえました。懐柔や恫喝によりメディアを骨抜きにしました。検察を牛耳って三権分立を弱体化させました(珍しく検察が動いたIR汚職の秋本司と、買収疑惑の河井夫妻の件は成り行きを注視しましょう)。女性が輝かず、1億総活躍もしなかった代わりに、安倍信者が輝き、活躍しました。SNSで誰かが安倍批判をしようものなら即座にネトウヨがワーッと群がり「サヨクだ」「国賊だ」「売国奴め」「日本から出て行け」「対案を出せ」と決まり文句を叫ぶのです。ネトウヨだけではありません。安倍氏の街頭演説で「やめろ」と言っただけの一般市民が北海道警察に取り囲まれて排除されるという信じがたいことまで起きました。

一方、安倍氏に従順な自民議員は差別的な発言をしても咎められません。官邸のウソやごまかしに荷担した官僚は出世しました。アベ友もしくは上級国民と呼ばれる人たちは、ドリルでハードディスクを壊しても賄賂をもらっても、強姦や賭博マージャンの疑惑があっても起訴すらされません。……日本全体がブラックです。

お友だち優遇案件である森友・加計、桜を見る会などの問題は未だにくすぶっています。安倍応援団は「いつまでやっているんだ」と言いますが、たとえば桜を見る会は一発で解決するんです。官僚が招待者名簿を出してきて「招待状に記された60から始まる番号は安倍さんや昭恵さんの枠ではありません」と明示したり、ホテルで行われた前夜祭の明細を安倍氏が提示し「全部会費でまかなっている。安倍事務所は一銭も支払ってない(=支援者を買収していない)」と啖呵を切ったりすればいいんです。それをしないのってモリカケサクラやはり……?

安倍内閣は民主主義の基本である「熟議」をせず、国会では意味不明な答弁をしたりときどきキレたりして時間をかせぎました。これだって全力でごまかしているのです。特定秘密保護法、安保法制、TPP、共謀罪、カジノ法、働き方改革などはことごとく強行採決。地盤がゆるくて完成するはずがない辺野古の工事を推し進め、土砂を投入しました。辺野古の環境破壊を指摘された安倍氏は、サンゴは移しております、とすぐにバレるウソをつきました。

去年から今年にかけて、日本は消費増税と新型コロナに見舞われました。経済はガタガタで、もう小手先の数字を操作できるレベルではありません。実務能力のなさもコロナ対応で露呈してしまいました。自慢のインバウンドもなくなり、オリンピックも風前の灯。東北の復興は? 原発事故の処理は?──7年と8ヶ月で、日本のあらゆるものが破壊されました。国を壊すのが左翼や国賊なら、安倍氏とその取り巻きがそれじゃんねえ。 

自民党の上部は憲法を遵守していません。違憲と言われる安保法制も強行採決しましたし、今も、憲法53条を無視して臨時国会を開かないのです。

現在の日本は民主主義国家とは呼べません。徳川幕府がクーデターにより薩長幕府になっただけです。先の敗戦でちょっぴり民主国家になりましたが、こんにちもアメリカを戴く薩長政府であることが安倍政権でハッキリしました。

国民はなぜか政治について語りたがりません。床屋政談さえしないのです。自分たちは「主権者」なのに、働き方が改悪されても増税されても黙っています。失敗したら行政に救いを求めるでもなく「自己責任だから仕方ない」と諦める──こういう心の動きを理解するのが今の私のテーマのひとつであります。

自分や既得権益者の腹をふくらませるだけの政権が続いていますが、本来、民主主義国家は適度に再配分をしなきゃいけないのです。だから政治家を選ぶさいは「国民のことを考えているかどうか」で判断しましょう。世襲政治家ばかりに統治されたら、既得権益を守ることに躍起になる彼らは庶民を冷酷に切り捨てるでしょう。

病気を理由に安倍氏が辞任したのは歯がゆいことでした。日本がきちんとした民主主義国家であり法治国家であるならば、もっと早く安倍氏は退陣していたはずです。近い将来、ここ数年の資料が公開され、歴史的検証が加えられるのを望んでいます。