『ミラクル・ワールド ブッシュマン』(原題:The Gods Must be Crazy、1981製作、南ア)を知っているのは50歳以上でしょうか。日本では1982年に公開され、土曜日のオールナイトを友人と見に行った記憶があります。興行収入は23億7000万円は、『E・T』の35億円に継いでその年の2位らしい。大ヒットです。翌年、人気者ニカウさんが日本にやってきました。
のちに『コイサンマン』と解題されたのは、ブッシュマンの呼称が差別的だかららしいんですが、コイコイ人(白人が「ホッテントット」と読んだ牧畜民)がブッシュマンを侮蔑的に呼ぶ言葉がサン人とのことで、なかなか複雑です。日本では現在DVDが売られていません。私はざっと見られればいいので、英語版の格安DVDを注文。続編『コイサンマン2』(原題:The Gods Must be Crazy Ⅱ、1988製作、ナミビア)もセットになっていました。
昨日の夜、パソコンのサブモニタで再生し、ながら見しました。
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『コイサンマン』第1作は、文明との衝突というアイデアがおもしろい。
飛行機から白人が投げ捨てたコカ・コーラの空き瓶が主人公カイ(ニカウ)のそばに落下しました。カイはそれを集団にもちかえります。固くて丈夫でいろんな作業に使えるうえ、吹けば楽器にもなるスグレモノ。ところが、それをみんなが奪いはじめ、仲の良かった集団に喧嘩が生じます。カイは空き瓶を地の果てに捨てにいく旅に出ました。……そこから、アメリカ人やテロリストとのドタバタ喜劇が繰り広げられます。あれ、瓶を捨てる話はどうなった? と思ったら、みごとに締め括りました。
『コイサンマン2』は、荷台で遊んでいたブッシュマンの幼い兄弟2人を乗せたまま、トラックが発進するところから始まります。トラックの轍と足跡を見て息子たちが連れ去られたと気づいた主人公カイは、轍を辿って走り始めます。トラックを運転するのは密猟者で、積み荷は象牙でした。
いくつかの話が同時並行するのは前作同様で、小型飛行機が墜落した白人男女と、アンゴラ内戦で戦っていたアンゴラ兵とキューバ兵が加わってドタバタドタバタ……。
こちらには文明の対比も、それに代わるアイデアもありません。映画としてはいただけませんが、まあまあ笑えるし、ニカウさんが全編走っていたからいいわ。
ブッシュマン独特のクリック音を、子役はあまり発しなかった。吹き替えなのでしょうか。最後の「ダディ!」はいただけないよね。
両作品に言えるんですけど、だいたい20人くらいが暮らしていたのに、あれで草葺きの家が一つだけというのはあり得ません。
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ニカウが見た最初の白人は自分だと監督ジャミー・ユイスは言っていたそうですが、ニカウは白人未踏の地で狩猟採集生活をしていたわけではありません。
1989年に田中二郎がナミビアで彼に会ったと『ブッシュマン、永遠(とわ)に』に少しだけ触れられています。わりあてられた居留区の近くでキャンプをしていたらしい。名前の発音はニカウではなくクリック音の混じったガウハナ(/Gau/hana)だとあります。世界的スターなのにつましい生活をしていたそうです。日本の思い出は北海道の雪だったとか。
読んでいる途中のジェイムス・ズースマン『「本当の豊かさ」はブッシュマンが知っている』はこの映画について比較的多く頁を割いています。著者は1998年にニカウ本人(この本には正しい発音はヅァウだとあります)にも会ったようです。映画がアフリカや世界でどのように受け容れられたか、ブッシュマンたちにどんな影響を与えたか、や、虚実ないまぜであることを許容しない人類学者からの批判、監督ユイスのウソなどが書かれていました。