島泰三『魚食の人類史』(NHKブックス)は、霊長類としての人間のニッチ(他種と競合しない食べ物)は魚であるということを前提に、人類史を俯瞰する一冊でした。島氏はサルの研究者です。『はだかの起源』や『親指はなぜ太いのか』も、知的好奇心をガンガン刺激してくれる本でしたよ。
非常に簡単にまとめます。
ホモ・サピエンスは、長らく同居していたホモ・エレクツスやネアンデルタール人より体力的に劣りましたが、そのぶん泳ぎが得意であるなどして、彼らとは違うニッチを得ました。淡水魚ばかりか、海の魚貝を食べるようになったホモ・サピエンスは、牧畜や農耕を始めたあとでも、漁撈により必要な栄養素を魚から摂ってきたそうです。
スウェーデンのルンド大学薬学部准教授スタファン・リンドバーグは、パプアニューギニア・トロブリアンド諸島キタバ島で冬眠の健康調査を行い、またさまざまな学問分野の研究結果を調べ上げ、ホモ・サピエンスと食物の関係を次のようにまとめているそうです。
(略)そこから得られた注目すべき証拠は、西欧化によって世界中で一般化している病気が、狩猟採集民の食物によって解決されることを示唆している。明らかにホモ・サピエンスの栄養メタボリズムは最近になって導入された主食である穀物、乳製品、添加塩、精製脂肪と砂糖に完全には適応していない。魚や貝をいつも捕ることができた祖先たちだけが今日、奨められている量のヨウ素をとることができただろう。人間のヨウ素要求量が高まったことは、何かの食物的理由によって最近になって増大したと考える十分な理由がある。これらには、ある種の食物の根、野菜、豆、そして種子(穀物)が含まれるが、ことごとく甲状腺腫誘発物質であり、これがホモ・サピエンスのヨウ素要求を高めたのである。(p.217)
リンドバーグという人はパレオダイエット(原始人食ダイエット)を調べたときに見た名前です。パレオ食は肉食と思われがちですが、魚や貝や海藻もまた重要だということなんでしょう。青魚に含まれるDHAやEPAなどが必須脂肪酸であることも著者は書き忘れていません。
海藻を分解する酵素を持っているのは日本人だけだともあります。異論があるようですが、牧畜に頼らざるを得なかったヨーロッパ人に乳糖耐性を持つ人が多いことを考えれば、海藻を多く食べていた日本人にそんな適応が起きたことはないとも言えますまい。私は魚貝類や海藻類をもうちょっと摂取したほうがよさそうです。
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ところで。最近、川魚を食べるニホンザルがいるというニュースが報じられました。人間と猿が魚を争う時代がやってきたのかッ!?