狩猟採集民のように走ろう!

狩猟採集民について学びながら、現代社会や人間について考えるブログ

『エルピス』

社会派エンタメだと話題だったドラマ『エルピス─希望、あるいは災い─』(カンテレ制作、全10回)を観ました。テレビをあまり観ない私が、久々の連続ドラマ視聴。疲れました。

テレビが政府広報になっていたり、忖度したりするテレビ報道の腰抜けぶりを批判してみせたことは素直に称賛します。

つい最近、岸田首相の息子がフジテレビの女性記者に情報をリークしたと報じられました。その女性総理番記者が別媒体で、こんな発言をしていたのです。

(略)なので、私が取材先の立場だったら「嫌」と感じることはしないようにしています。相手が心地いいと思える距離で、相手の心に寄り添い、信頼されるような記者とは、と客観的に考えながら行動しています。(→JJ OFFICIAL SITE

なんて生ぬるい。『エルピス』は、そのフジテレビ系列で放映されました。

脚本・渡辺あや、監督・大根仁。タイトルのエルピスは、《古代ギリシャ神話で、中からさまざまな災厄が飛び出したと伝えられる「パンドラの箱(壺)」に唯一残されていたものとされ、良きことの予測として【希望】、悪しきことや災いの予測として【予兆・予見】とも訳される言葉》なんだそうです。(→こちらの記事より)

キャスター浅川恵那(長澤まさみ)と若手ディレクター岸本拓朗(眞栄田郷敦)の二人が、連続少女暴行殺人で死刑囚となった人物の冤罪を晴らすべく調査を開始します。どうやら事件の背後には、麻生太郞風の大物政治家がいるらしい。二人は探り当てた真実を放送しようとしますが、いろんな妨害が入り……というのがあらすじです。見返して分析するつもりはありませんが、要所々々で「食事」がキーになっているようでした。

そもそも、民主主義国家を自称しているのに大物政治家の悪事を暴くことをテレビ局が躊躇することや、「大物を追及するドラマってすごいよね」なんて視聴者が言ってしまう日本社会って、そもそも何かが狂っているんですが。

ストーリーに関しての不満もあります。とくに、主要人物二人の「やる気スイッチ」が激しくオン・オフを繰り返す点は興醒めでした。人間の心理や行動が揺らぐのはわかりますが、何度も両極端に振り切れるのは……。8話目くらいだったかな、浅川がテレビ局の論理で堂々と岸本を説教するシーンなど、正直、白けました。

真相がわかってから浅川のやる気スイッチをオフにしたのは物語を停滞させて最終話につなぐための時間稼ぎだったのかもしれません。最終話では、やる気スイッチがオフになった岸本の家に、いきなりオンになった浅川が……これ以上はネタバレかな。

ところで。今年、Netflixで『新聞記者』が同じように話題になりました。過去には、『相棒』や『ドクターX』で現実の政治スキャンダルをネタにしたような回があったと言われたこともあります。しかし、視聴者が「すげえな。よく作ったよね」と驚いたドラマが報道や政治に何か影響を与えたことがありましたっけ。

Twitter などの反応を見ると、『エルピス』は絶賛されているんですが、この手の社会派ドラマが、かえってただのガス抜きになりはしないかという危惧はあります。

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12/29追記=Twitter の匿名アカウントでこのドラマに言及する人は多いんですが、Facebook すなわち実名で話題にする人は自分の知る限りフリーランスだけです。みんながみんな視ているわけではないにしても、組織に所属する人はドラマに関してすら政治について語れないと自制している可能性があります。引きつづき観察しなきゃなりません。

みんな有権者なのに、どうして政治について自由に語れないのか、私の仮説は、「上下関係や差別のない社会【狩猟採集民に憧れる理由 3/3】」の「2015年のSEALDs批判やSNSを見て」の項に書きました。