狩猟採集民のように走ろう!

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吉野家

《吉野家、役員の不適切発言謝罪 「生娘を薬漬けのように牛丼中毒に」》という記事(→毎日新聞)より。[ ]内は引用者による補足。

 牛丼チェーン大手の吉野家は18日、同社役員が不適切な発言をしたとして、「多大な迷惑と不快な思いをさせたことに対し、深くおわび申し上げます」とする謝罪文を発表した。この役員は企画本部長の常務取締役で、東京都内で16日に開かれた[早稲田大学の]社会人向け講座に講師として登壇した際に不適切発言をしたという。

 受講生とみられるネット交流サービス(SNS)への投稿によると、常務は若い女性向けのマーケティング戦略について「生娘をシャブ漬け戦略」と表現。「田舎から出てきたばかりの若い女の子を生娘なうちに牛丼中毒にする。男に高い飯をおごってもらうようになれば絶対に食べない」などと発言したという。

 吉野家は毎日新聞の取材に対し、こうした発言があったと認めた上で「発言は一度利用した客の継続利用を図る意図があった」と釈明。謝罪文では「用いた言葉・表現の選択は極めて不適切であり、人権・ジェンダー問題の観点からも到底許容できるものではありません」とし、厳正に対処するという。(以下略)

このニュースに対し、《人権・ジェンダー問題の観点から》吉野家を批判しているようです。たしかにひどい。生娘云々のたとえ、おそらく日ごろから使っている、本人にとっての鉄板ジョークだったのではないでしょうか。森なんとか元首相のように、発言主は社会や女性に対する認識をアップデートできかった前近代的な口だけマッチョおじさんに違いありません。

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しかし、私はあえて、差別的表現以外の問題、すなわち発言の意図であったという《一度利用した客の継続利用を図る》について書きます。

とはいえ「地方だって大きな都市には吉野家はあるから、田舎から出てくる前に牛丼中毒にさせるべきだろう」とか、「そもそも吉野家は若い女性をターゲットにしているのか」とか、次々浮かぶ疑問については書きません。

吉野家が取材に対し「一度利用した客の継続利用を図る意図があった」と弁明したことにまつわることです。リピーターを増やすことは商売上とても重要なテーマでしょうが、そこに外食業界や食品加工業界が仕掛けてきた、えげつない罠が隠れているからです。

マイケル・モス『フードトラップ』には、食品加工業界が、徹底的なマーケティングと研究により、消費者を塩・砂糖・脂肪中毒にしてきた手法が書かれています。

たとえば、人間はさまざまな食べ物から栄養素を取りこみたいので、強い味を食べたときに脳が「飽きた」という信号を送るらしく、それを「感覚特異性満腹感」と呼ぶそうです。したがって、売れ続ける商品を作るには、《興奮を呼ぶ最初のひと口の強い風味》を持ちつつも感覚特異性満腹感の寸止めラインを探る必要があります。あるメーカーはコカ・コーラの味を分析し、寸止めギリギリのバランスが《他のどの製品よりも優れている》と結論づけたとか。

日々、消費者をリピーターにするため、企業は至福の味を模索しているのです。塩・砂糖・脂肪の微妙な配分、見た目、香り、食感、そしてコストや広告戦略……。いちばん大切なのは儲けることですから、メーカーは消費者の体型や健康のことなんて考えていません。「田舎から来た若い女の子に、健康に配慮した牛丼を赤字覚悟で安く提供します」という企業は、生き残れないでしょう。

外食業界のターゲットは、若いほどいい。その後何十年も常連客になってくれるからです。かつて日本マクドナルドの経営者・藤田田は「人間は12歳までに食べてきたものを食べ続ける」と言い、オモチャを撒き餌に子供を店舗へと誘いました。吉野家のコマーシャルも、お土産の牛丼に喜んだ男の子が「明日はホームランだ」と言っていたっけ。20世紀のハーメルンの笛吹き男みたい。

外食業界や食品加工業界……いや、資本主義そのものが、われわれにフードトラップを仕掛けているのです。