アチェベ『崩れゆく絆』(光文社古典新訳文庫)を読みました。著者チヌア・アチェベ(1930〜2013)はイギリス領であったナイジェリアに生まれます。キリスト教信者の両親に育てられイギリスにも渡っています。本書は1958年刊行。アフリカ文学の先駆という位置づけの、記念碑的作品だそうです。
舞台は定住・農耕があり、階級があり、女性や子供を蔑視し、奴隷や被差別民がいる、首長制社会です。リーダーなく平等分配社会が特徴の狩猟採集民ファンにとって好ましい社会ではありません。集落には祖霊がいて、農耕の儀礼などが行われます。主人公オコンクウォは勇猛果敢な男性ですが、圧政的で、雄々しくありたいがために暴力をふるったりします。
村の暮らし、事件、昔話などが綴られたあと、村に白人がやってきます。オコンクウォはどう対処するのか、緊張が高まります……。
いい小説でした。白人社会がアンハッピーで、未開社会がハッピーという、単純な二項対立にしてないのが作品に奥行きを与えています。
★ ★ ★
解説にあるとおり、学術的な記録ではないので人類学的な視点で読まないほうがいいのだろうと感じます。ヨーロッパがアフリカ大陸を植民地にする前は、農耕民、牧畜民、狩猟採集民が混在していました。帝国主義的な支配により、無文字社会の人たちの文化や伝承がなくなるのは残念です。