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金誠『孫基禎──帝国日本の朝鮮人メダリスト』

少し前、書店に並んでいた金誠『孫基禎──帝国日本の朝鮮人メダリスト』(中公新書)を見つけ、つい買っちゃっいました。

日本の統治下にあった朝鮮。孫基禎(1912-2002)は日本人選手としてベルリンオリンピックに参加し、2時間29分19秒で優勝。その模様はレニ・リーフェンシュタール監督による記録映画『民族の祭典』で確かめることができます。ともに参加した朝鮮出身の南昇龍は銅メダルを獲得しました。日本人として2人は祝福されますが、同時に朝鮮のナショナリズムに火をつけてしまいます。朝鮮の「東亜日報」は、表彰式の写真を加工し、孫の胸に描かれていた日の丸を消去し、日本から弾圧されます。孫にも、もちろん日本人ではなく朝鮮人としての誇りがあり、日本政府は孫を監視することになりました。翌年明治大学に入学しますが、走ることはなく、箱根駅伝などにも参加していません。戦時中は、日本に協力させられました。

孫基禎の人生が国際的な政治状況に翻弄されたことは、おおむね知っていることです。しかし、戦後の彼の歩みはほとんど知りませんでした。

戦後、孫は朝鮮スポーツの発展に寄与しています。戦敗国であるドイツや日本よりも国際レースに復帰するのが早かった大韓民国は、孫の尽力により1947年に渡米を果たし、ボストンマラソンで徐潤福を走らせて優勝させるなどしています。1950年には同大会の1〜3位が韓国人で占める快挙を果たしますが、朝鮮戦争が始まります……。

その後も、孫の人生に歴史の影響が見られます。

1988年、ソウルオリンピックの最終ランナーの一人に選出されました。「祖国でオリンピックが開かれ、しかもその最終ランナーに選ばれるなんて夢のなかにいるようです。あのとき金メダルをとった時以上だ」と朝日新聞のインタビューに答えているようです。動画を見ると、たしかにうれしそう。孫はこのとき76歳、飛び跳ねていますね。 

孫基禎―帝国日本の朝鮮人メダリスト (中公新書 (2600))