ニコラス・ロマノフ/カード・ブランガード『ランニング革命』を読みました。ランニング・フォームに関する本です。前回書いたように、10年ほど前、『ランニングを極める』を読んで知り、ときどき動画などで断片的に調べていたポーズ・メソッドを筋道立てて総合的に学ぶことができました。
1970年代、ランニングは個々人の天性であり、教えられるようなものではなかったといいます。まあ、そうでしょう。われわれが子どものころ、速く走る技術なんてことを教えてくれる人はいませんでした。著者はソ連の教育大学を卒業してコーチをしていた1977年にポーズ・メソッドに気づいたと書きます。
写真は、本の帯より。ポーズ・メソッド(Pose Method)とは走動作のうち 、ポーズ、フォール、プルの3局面を取り出したものです。拇子球が接地しているところはすべて同じ地点であることに注意。着地から離地にいたるまでの3局面の姿勢をしっかり身につけ(撮影したものを見ることで知覚を調整し)たあと走動作にフィードバックするということらしい。ポイントは重力です。
基本姿勢(ポーズ)から拇子球を起点に身体を倒し(フォール)、離地から支持足を引き上げて(プル)飛行期に移り、逆の支持脚でフォアフット着地して基本姿勢(ポーズ)に戻ります。
紹介されるドリルはランニングクラブでやるものと似ているんです。ポーズ・メソッドがオリジナルで、そこから拡散されたのかどうかはわかりません。ドリルの目的を知っているかどうかで効果が違うということはあるはずです。
どうせ秋冬の大会はないんだし、私もじっくり取り組みますか。とくに自分はポーズの瞬間の支持脚の角度と、フォールの技術について考えてみたいのです。
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以下、また余談です。本書に、「狩猟民と採集民」という表現が出てきます。狩猟採集民と訳さなかったのかは謎ですけど。
昔むかし、狩猟民や採集民がナイキのシューズを持たなかったころのこと。彼らはモカシンやワラーチ、足を守るための薄くしなやかな靴底のサンダルを編み出した。それは分厚いヒールのない最小限の履物だったため、彼らは身体の設計に即した動き方をしていた。
ランニングシューズが激増した1970年代以前に人がどんなふうに走っていたかを手軽に感じるには、靴を脱いで10メートルか20メートル走ってみればいい。かかとで着地するのが痛くて非効率なこと、フォアフットで着地するのが心地よくて理に適っていることがはっきりする。(略)(110ページ)
人間が裸足に近い状態で走っていたことを考えるなら、やはりフォアフットが正解なのでしょう。面積が狭くて固い踵で着地すると激痛が走るはずです。
ロマノフは爪先と踵のドロップ差がないシューズを推奨しています。私は踵着地ができず、しかたなしにフォアフット着地なんですけど、踵の高いシューズを履くと、着地したあと踵が一瞬落ちるさい、シューズの分厚いリアフットの部分がガツンと踵に衝撃を与えます。数年前のつくばマラソンはファンランのつもりで深く考えず9ミリドロップのシューズを履いたため30キロあたりからハムやふくらはぎが痺れるように痛み始め、終盤は歩きも入ってしまいました。結果、数ヶ月鈍痛と付き合うことに……(ジョギングはしていましたけど)。
2009年春のある日、多摩川沿いをちんたら走っていると、遠方からガンガンというかゴンゴンというか耳慣れない音が聞こえてきます。獣の唸り声? 地鳴り? 異常気象? 音はどんどん近づいてきます。なんだなんだなんだ?……身構えて正体を見極めようとしました。ビブラム・ファイブフィンガーズ(VFF)を履いた男性の足音でした。初めてVFF使用者を見たのですが、なむさん、彼はあのシューズでヒールストライクをしていたのです。苦悶の表情を浮かべ、額にダラダラ脂汗を流していました。すれ違ったあと徐々に遠ざかる足音を聞きながら「あんなにつらいものなのか」と怖くなり、私はしばらくVFFデビューできなかったのでした。