狩猟採集民のように走ろう!

狩猟採集民について学びながら、現代社会や人間について考えるブログ

悲しき熱帯

悲しき熱帯〈1〉 (中公クラシックス)

悲しき熱帯〈1〉 (中公クラシックス)

  • 作者: レヴィ=ストロース,Claude L´evi‐Strauss,川田順造
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2001/04/01
  • メディア: 単行本
  • 購入: 13人 クリック: 89回
  • この商品を含むブログ (126件) を見る
 
悲しき熱帯〈2〉 (中公クラシックス)

悲しき熱帯〈2〉 (中公クラシックス)

  • 作者: レヴィ=ストロース,Claude L´evi‐Strauss,川田順造
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2001/05/01
  • メディア: 新書
  • 購入: 6人 クリック: 15回
  • この商品を含むブログ (67件) を見る
 

短距離ランナー宣言したからって、1日10km平均くらいはゆるジョグしたいのです。狩猟採集民の男性は10〜15km移動する(ウォークも含まれる)と、ダニエル・E・リーバーマンは『人体六〇〇万年史』に書いてます。つまりそれが人間本来の運動量なのでしょう(半分くらい、という説もあります)。でも、土曜日の短距離ダッシュの筋肉痛がおさまらないので本日は休みました。雨だったし。

ここんとこ、時間をかけてレヴィ=ストロース『悲しき熱帯』を読んでいました。

20世紀を代表する「構造主義」の名作ですが、大学時代、何度かチャレンジして放り出したままでした。講談社学術文庫(タイトルは『悲しき南回帰線』です)は訳文が読みにくかったし、文学研究を志していた私にとって文化人類学の本を読むのは回り道に思われました。しかし狩猟採集民に興味があるといったら避けて通れないようです。今回は、中公クラシックスの川田順三訳にしました。平易とは言えませんが、構造主義の基本は押さえているつもりなので、さほど誤読してない気がします。

レヴィ=ストロースは二項対立からスタートして高次の真理に辿りつこうとします。フランスの文明人が、地球の裏側にいるブラジルの「未開人」を訪問する行為自体がそもそも二項対立的ではありませんか。彼は、南米のインディオや東洋(インド)を観察することで、西洋中心主義や進歩の絶対視を相対化します。

以下、レヴィ=ストロースがフィールドワークした狩猟採集民についてメモしておきます。

1930年代半ば、レヴィ=ストロースは南米で「未開人」を探して旅をします。道なき道を進み、トラブルを乗り越え、未開の部族に会いにいくのです。

とはいえ彼が遭遇した南米インディオはすでに白人との交流もあり、農耕もやっています。尾本恵市『ヒトと文明』の分類によれば、狩猟採集民の最終段階《大集落や大型建造物を造り、他地域の集団と物資の公益をおこなう「複雑な狩猟採集民」(コンプレックス・ハンター・ギャザラー)または「豊かな食料獲得者」(アフルエント・フォーレジャー)と呼ばれる集団》にあるようです。私が知りたい《非定住で遊動生活をおこなう古典的狩猟採集民》ではなかったのは少し残念です。

「複雑な狩猟採集民」または「豊かな食料獲得者」は、財産が増え、階級が生まれ、部族間での交易や戦争が起きます。事実、「未開人」との緊張を、レヴィ=ストロースは幾度も経験しています。1万年ものあいだ農耕し都市生活者となった白人は家畜やネズミなどが媒介するさまざまな病原菌に見舞われ、ある程度免疫ができていますが、狩猟採集民にはそれがありません。白人との接触によって未知の伝染病に罹り、絶滅の危機に瀕する部族もありました。

裸で抱き合ってふざけ合う、とても幸せそうな写真が載っているナンビクワラ族、彼らはいまどうしているのでしょうか?

70年後、朝日新聞の取材班が彼らを訪ねました(朝日新聞夕刊、2008年9月29日〜10月3日の5回連載)。先住民保護区に暮らす彼らは砂地で寝ていたそうですが、あたりにはブランコ(白人)の文明が押し寄せて動物がいなくなり、生活が一変。スーパーで買い物をしているそうです。白人と馴染む必要性を感じているけど、差別を受けているとあります。なにいってるんだ、土地はもともとインディオのものなのに。

古老の女性を取材すると、部族の歴史をこう語りました。

「ブランコが『進歩』を持ってきた。進歩と一緒に、病気や災いが来た」
「進歩は災いだけをもたらした」

それはまさに、レヴィ=ストロースが懸念していたことです。文明が幸せをもたらすとは限らない。

その古老はレヴィ=ストロースを記憶している、と言います。「我々の言葉を覚えようとしてくれた。ブランコには珍しい、いい人だった」とのこと。なんか嬉しい。

 『悲しき熱帯』の読書は長い旅でした。

注意してみれば、狩猟採集民に目をつけた哲学者はいて、ルソー『人間不平等起源論』、エンゲルス『家族・私有財産・国家の起源』、それにレヴィ=ストロース『野性の思考』なども読みたいのですが、今は脳味噌を休ませたい。読んだら、感想を書きます。そのときはまたつき合ってくださいませ。