狩猟採集民のように走ろう!

狩猟採集民について学びながら、現代社会や人間について考えるブログ

週末のできごと&東京マラソン

用事あって、土日はずっと歩いていました。てくてく歩くテクシー(死語)です。計20分くらい電車にも乗りましたが、ほとんど歩きました。腕につけているガーミンで歩数を見てみると、土曜が3万歩超、日曜日は2万歩弱でした。外食はせず、互いにマスクをつけたまま少し人と話しました。

おそらく花粉や黄砂があり、目が痒くてしかたありません。私は冷たいものを摂らなければ花粉症の症状を抑えられるんですが、今年はひどいのかな。韓国で大きな山火事があり、煙が日本のほうにも流れているそうです。

★   ★   ★

土曜日、出かける前にニュースを見ようとテレビを点けたところ、いきなり「ニュース速報」の文字。ウクライナでまたなにか起きたか? と身構えたんですが、パラリンピック金メダル獲得の報でした。

パンデミック、戦争、パラリンピックが同時に起きている世界。翌日は、2万5千人が走る東京マラソン……。参加するラン仲間には楽しんでほしいけど、パラレルワールドという気もします。

★   ★   ★

日曜日、東京マラソンが開催されました。エリートレースの終盤をテレビ観戦。

男女ともに世界記録保持者が優勝しました。男子はエリスド・キプチョゲ選手(ケニア)が2時間2分40秒、女子はブリジット・コスゲイ選手(ケニア)が2時間16分2秒、ともに大会新記録でレースを制しました。キプチョゲは37歳か。相変わらずお手本のような美しいフォームでした。

日本選手はと見ると、鈴木健吾選手が2時間5分28秒で4位。新谷仁美選手と競っていた一山麻緒選手は、新谷選手を振り切って2時間21分2秒の6位。鈴木健吾&一山麻緒両選手は夫婦でのマラソン合計タイムが世界最速と報じられました。めでたいことです。

ここのところ日本人だけでレースが行われていたため耳にすることがなかった「日本人◎位」というガラパゴス順位が復活していました。

午後、大学の同級生からLINEがあり、コロナに感染したとのこと。驚きました。地方に住む知り合いの感染は初めてだったからです。その友人男性は、感染者が比較的少ない県に住み、日常的に人が密集している街なかに行っていないはず。そんなところでも感染リスクがあるのかと、ビックリした次第。

彼は、ワクチン3度目接種直後に感染したそうです。副反応が収まったタイミングで39度以上の高熱が出たため、副反応の続きかどうか判断がつかないままPCR検査で陽性が判明。療養するホテルの手配が間に合わないそうで自宅待機中とのことです。現在、感染しているのは家族のうち友人だけで、彼自身も長文のやりとりができるほど軽症ですが、数日後には息子の高校受験が控えているらしい。濃厚接触者である息子くんは別室で試験を受けることになるそうです。

★   ★   ★

年末年始に読んだ本について、備忘録のためにも10本くらいはブログに書きたいんですが、仕事が溜まったり時事ネタがあったりして思うようにいかず。確定「深刻」もまだです。

原発への攻撃と山本太郎の質問

2年以上続くパンデミック、ロシアによるウクライナ侵攻、北京パラリンピック。さらに、日曜日は、2万5000人が走るという東京マラソン……参加する数人のラン仲間はぜひとも楽しんでほしいと思うものの、世の中がフクザツカイキで、なんだか頭が混乱します。本日は、ロシアがウクライナのザポロジエ原子力発電所を攻撃したと報じられました。私はショックを受けました。視界がぼんやりして動悸が早まっている感じです。

★   ★   ★

2015年(明治維新暦では平成27年らしいけど、何年前のことかすぐに計算できる人がいるんでしょうか)7月29日、ネットで国会中継を見ていたら、「平和安全法制に関する特別委員会」で当時参議院議員の山本太郎が当時総理大臣の安倍晋三とこんなやりとりをしました。以下、国会議事録(→こちら)より。

山本太郎 [略]総理、政府としましては、平素より、弾道ミサイル発射を含む様々な事態を想定し、関係機関が連携して各種シミュレーションや訓練を行っているということで間違いございませんか。
内閣総理大臣・安倍晋三 政府においては、国民の生命、財産を守るため、平素から、様々な事態を想定して、地方公共団体、関係機関を通じた対処能力の向上が図られるよう各種のシミュレーション、そして政府機関が連携した対処訓練や地方公共団体と共同した国民保護訓練を実施をしているところであります。このうち、国民保護共同訓練については、各種テロや武装グループによる攻撃など緊急対処事態を主として、警察、消防、自衛隊など関係機関が参加した総合的な訓練を行っておりまして、原発に対するテロ攻撃を想定した訓練も行っております。
山本太郎 ありがとうございました。やはり、有事に備えてしっかりとシミュレーションするんだ、訓練もするんだという総理のお仕事をちょっとかいま見れたような気がいたします。
 では、お聞きします。総理、様々な事態を想定し各種シミュレーションを行っているそうでございますが、川内原発の稼働中の原子炉が弾道ミサイル等攻撃の直撃を受けた場合、最大でどの程度放射性物質の放出を想定していらっしゃいますか、総理。
政府特別補佐人・田中俊一 [略]
山本太郎 ということなんですが、今の答弁は余りにも長過ぎて、テレビを御覧の方は何を言っているか全く分からなかった方、大勢いらっしゃると思います。要は、シミュレーションしていないんだと、シミュレーションしないんだということをおっしゃったんですよね、委員長。弾道ミサイルが飛んできた場合、原子炉、その近くに着弾した場合、もしもそれが破損した場合に一体どのような状況になるか、その漏れ出すというものに対しては、それは計算されていないということですよね。[略]
安倍晋三 武力攻撃事態は、その手段、規模の大小、攻撃パターンが異なることから、これにより実際に発生する被害も様々であり、一概にお答えすることは難しいということでございます。
山本太郎 一概に答えるのは難しい、仮定では答えられない。そして、この安倍総理の名前でいただいた質問主意書でも、仮定の質問であり、お答えすることは差し控えたいというようなお答えをいただきました。
 でも、考えてみてください。今回の法案、中身、仮定や想定を基にされていないですか。A国がB国に攻撃を仕掛けた、友好国のB国から要請があり、新三要件を満たせば武力行使ができるのできないの、これ仮定ですよね。仮定でしょう。仮定でよく分からないとかってごにょごにょ言う割には、仮定でどんどん物事をつくっていこうとしているんですよ。仮定、想定で、そこからシミュレーションしていって物事をつくり上げていくというのは当然のことだと思うんです。都合のいいときだけ想定や仮定を連発しておいて、国防上ターゲットになり得る核施設に関しての想定、仮定できかねますって、これ、どれだけ御都合主義ですかという話だと思うんです。
 我が国を取り巻く安全保障環境、著しく変化しているんでしょう。飛んでくるかもしれないんでしょう、ミサイル。中国が、北朝鮮が、いろんな話をされているじゃないですか。十分で到達します、飛んできたときは何もできていません。困りますよね、それ。本気で守る気あるんですか。この国に生きる人々の生命、財産、幸福追求権守るんだったら、一番脆弱な施設、しかも核施設をどのように防御するかということを考えなきゃいけないのに、その逃がす方法も。[略]

7年前、上記のやりとりを聞きながら、「原発をミサイル攻撃するなんて地球規模の被害が出ることをやる国家はないだろう。いや待てよ、帝国主義国家や独裁国家の指導者は歴史上、非道なことをやってきた。そのときなぜ原発が攻撃されなかったかというと原発がなかったからだ。ミサイルだけではない。誰かが原発のシステムにサイバーテロを仕掛けたら……」と空恐ろしい考えが頭をよぎりました。そんな事態を避けるには、原発をすべて廃炉にし、外交努力で戦争を抑えるほかありません。

★   ★   ★

ところが、です。

ロシアはまずチェルノブイリを制圧し、ザポロジエ原発を攻撃しました。今のところ、放射能は今のところ上昇していないと報じられていますが、今後、ロシアかどこかの国が他国の原発を破壊しないとは限りません。

目覚めるごとに状況は悪化。人類の終末がぐっと近づいてきた感じです。

「市民の抵抗」より。

ロシアによるウクライナ侵攻。

いろんな動画や写真が世界に拡散されています。フェイクが混じっている可能性もあり注意を要しますが、戦時の情報を伝える新しいツールになったのは確かです。

ウクライナ市民がロシア兵士に話しかける動画が多いのに驚きます。彼らは言葉も通じるし文化も共有しているから、情も湧きやすいのかもしれません(裏を返せば、言葉が通じず、人種や宗教が違う者に対しては人は残忍になりうる、ということでもありますが……)。

しかし、話をなんでも「感動」の方向に持っていくのはよろしくない。現に、非軍事施設にミサイルが撃ちこんでいる兵士がいるからです。

以下は、ヘンリー・デイヴィッド・ソロー「市民の抵抗」の一節です。アメリカ人でありマサチューセッツ州に住むソローがこれを書いたころ、アメリカには奴隷制度があり、メキシコを侵略していました。(引用は『市民の抵抗』岩波文庫より。飯田実訳)

 法律への過度の尊敬から生じる、ありふれた、しかも当然の結果がどんなものであるか知りたければ、大佐、大尉、伍長、兵卒、爆弾運びの少年兵、そのほかありとあらゆる兵士の縦隊が、みごとに隊伍を整えて、丘を越え、戦場へと進軍していくさまを見ればよい。彼らは、みずからの意思にさからい、そう、みずからの常識と良心にさからいつつ前進しているので、行路はひときわはげしくなる。彼らは、自分たちが呪うべき仕事にたずさわっていることをよく知っているのだ。みんな温和な気質の持ち主だからである。ところがいまの彼らは何者だろう? そもそも人間といえるのか?

 こうして大多数の人間が、およそ人間としてではなく、機械として、その肉体によって国家に仕える。それが常備軍、民兵、看守、景観、自警団などといわれるものの正体なのだ。

(略)自由の避難所となることをひき受けたある国家の人口の六分の一が奴隷であったり、国全体が外国の軍隊によって不当に蹂躙されたり征服されたりしたために、軍政に従わねばならなくなったりした場合、誠実な人間はただちに反乱と革命を起こすべきだと私は考える。この義務の履行がいまやとりわけ緊急を要するわけは、こうして蹂躙されている国家がわが祖国だからではなく、ほかならぬわが軍が侵略軍となっているからである。

歴史上、愚かな指導者が戦争を起こした例は枚挙にいとまがありません。指導者に送り出されて戦場に来た兵士は、機械となって非軍事施設にミサイルを撃ち込みます。しかし、多くのロシア兵士は人間の感情を剝ぎ取られることなく戸惑っているのではないでしょうか。

一方、ロシア国内では大規模な反戦デモが行われ、6400人の逮捕者が出たと報じられました。

もう一カ所、ソローの文章を引用します。

 人間を不正に投獄する政府のもとでは、正しい人間が住むのにふさわしい場所もまた牢獄である。

核の共有?

見てないんですが、安倍晋三と橋下徹がテレビで核兵器の共有について議論すべしと盛り上がったと聞きます。ロシアは核をちらつかせてウクライナを脅しているそうですが、それにかこつけたんでしょうか。愚かな発言をしたものです。以下は、リンク記事(毎日新聞 2022/2/28)からの引用──。

米国の核兵器を国内に配備し、日米共同で運用する「核共有」政策の導入について、安倍晋三元首相が27日のテレビ番組で「議論すべきだ」と発言したことに対し、広島の被爆者らから「非常に危険」と猛反発の声が上がった。

広島県民は怒りますよ。オバマ元大統領と一緒に平和記念公園にやって来て、《核兵器のない世界を必ず実現する。その道のりがいかに長く、いかに困難な者であろうとも、絶え間なく努力を積み重ねていくことが今を生きる私たちの責任であります》(→産経ニュース)とスピーチしたのはこの口か!?ってほっぺたをムギューッてやりたいはずです。

★   ★   ★

翌日の参議院予算委で立憲民主党・田島まいこ議員が安倍氏の「核共有」発言について質問すると、岸田文雄首相はこう言いました。(→日テレニュース

「平素から自国の領土に米国の核兵器を置き、有事には自国の戦闘機等に核兵器を搭載運用可能な体制を保持することによって、自国の防衛のために米国の抑止力を共有する枠組みを想定しているものであるとすれば、非核三原則を堅持するという我が国の立場から考えて認められない」

非核三原則とは《作らず、持たず、持ち込ませず》。1967年、佐藤栄作首相が表明したものです。

★   ★   ★

「非核三原則を堅持」は当然ですし、頼もしく聞こえます。

しかしこれもマヤカシです。アメリカが日本に核兵器を持ちこめるのは、すでにみんな知っていること。2009年には、「核密約文書を保管 「合意議事録」 佐藤元首相の遺族」というニュースが報じられました(→中国新聞2009/12/24)。国会でも以前から密約について話し合われています。

矢部宏司『知ってはいけない』『知ってはいけない2』は、アメリカと対米従属・日本のタブーをいくつも明らかにした本です。不確かな陰謀論ではなく、アメリカの公文書に基づいています。

核の密約のほかにも、例えば矢部氏は、日米地位協定では、日本のどこにでも米軍基地を置けることになっていると書きます。

安倍首相が一時期、北方領土返還を夢見てせっせとプーチン大統領と会っていたのをみなさんご記憶でしょう。日本のメディアは、少なくとも二島は返還されそうだと期待を煽っていました。

私は、「日本に北方領土を二島返還したら、ロシアと日本の国境に米軍基地ができる。ロシアがそんなことを許すはずがない。安倍氏とメディアはさも二島が還ってくるような口ぶりだが、アメリカと交渉して、北方領土にだけは米軍基地を造らないこと合意したのか? アメリカが譲歩するとは思えないけど……」とハラハラしながら見ていたんです。

すると!

2018年11月14日、衝撃的な動画が流れてきました(→テレ朝ニュース)。プーチンは地位協定の密約を当然ながら知っていて、「二島を返還したら、そこにアメリカが基地を造るんだろう(つまり、返還なんてしないよ)と切り札を放ってきたのです。アメリカの了解を得ていないであろう安倍氏がオロオロして否定しましたが、それで全てがご破算となりました。

──戦後、対米隷属を始めたのが岸信介とその実弟・佐藤栄作です。彼らを総理大臣にするためにCIAから巨額なカネが流れたそうです。岸&佐藤が決めた対米隷属の形を、より強固なものとしたのが岸の孫・安倍晋三。みんな山口選出。長州支配は悪い夢です。

今日もひとこと。戦争反対。

ロシアによるウクライナ侵攻

「何百年も前の人がこんなこと言っているってスゴくない?」

──こんなセリフをときどき聞きます。

10年くらい前かなあ、たまたま見たネット記事で、巷で賢いと言われている有名人がある哲学者の考えを紹介したあと、「200年前にこんなこと書いているってスゴくない?」と続けていました。

現代に生きるわれわれが悩むことは、過去の偉い人が脳みそに汗流して考え抜いていて、われわれはそれを読むことができます。2500年前の孔子やソクラテスの言葉も残っているのです。のちの人々は彼らの思想に触れ、難題解決の足がかりにしてきました。

だから「200年前にこんなこと書いているってスゴくない?」なんて読むと腰を抜かすりです。200年前だろうが500年前だろうが1000年前だろうが、偉い人がスゴいこと書いているのは当たり前でしょうよ、って。

しばらく考えて気づきました。そんな発言をする人は、時代が下れば下るほど人間が賢くなっていると信じているのです。人間は刻一刻と頭がよくなり、昔の人間はせいぜい中学生か小学生並みの思考しかできないと見下しているはずです。私は、江戸だって平安だって縄文だって、人間の賢さや愚かさは今と同じだと思ってます。1、2万年前の赤ちゃんを2022年に連れてきて育てれば、1人の現代人に成長するでしょう。(1、2万年前を生きるほうが幸せかもしれませんが)

考えてみれば、昔の賢人より今の自分は賢いと考えている人は多そうです。過去に私を混乱させた、SNSでの友人の発言がいくつか理解できるようにも思えます。たとえば、日本が超国家主義になり無謀な戦争に突入した過去を知っていながら、「現代人はあんな愚かなことしないだろう」とタカをくくる人がいるのです。だから彼らは共謀罪成立などを気にしていません。

人間なんて、ちっっっとも賢くなってないのに!

★   ★   ★

国連の常任理事国であるロシアがウクライナに侵攻するという暴挙に出ました。アメリカの出方次第では大きな戦争に発展する可能性もあります。少なくとも、今後、世界のパワーバランスや、経済、エネルギー、食糧などの問題で混乱が生じるでしょう。

コロナが終熄しないなかでの戦争勃発です。第一次世界大戦とスペイン風邪の流行がダブっていたことを思い出します。英国によるイタリア侵攻、ドイツのポーランド侵攻、日本による満洲建国も想起されました。ロシアは日露不可侵条約を勝手に反古にしましたし、1950〜60年代にかけて、旧ソ連はハンガリーやチョコスロバキアに軍事介入しました。

日本には、あのプーチンから北方二島を返還してもらおうとしていた人がいたっけ……。あのとき経済協力としてロシアに貢いだ3,000億円はどこに流れたんでしょうか。

ここ100年で、科学は発達し、宇宙開発、交通インフラ、軍事テクノロジー、コンピュータ、情報インフラなどで大きな飛躍を遂げたのは事実です。しかし、前述のとおり、人間が賢くなっていません。ロシアのウクライナ侵攻をどう見なし、どう解決すればいいのか。「歴史から学べ」と言うしかありません。

そして、もう一言、当たり前のフレーズを。

「戦争反対」

国家って何様だ。

「山奥ニートの結婚~一緒に赤ちゃん育てませんか~」

今年2月20日に放映されたフジテレビ『ザ・ノンフィクション』の「山奥ニートの結婚~一緒に赤ちゃん育てませんか~」を録画して見ました。

狩猟採集社会を知ってから、資本主義の外(お金のない世界)とはいいませんが、せめて隅っこ(あまりお金を稼がず、使わない世界)で暮らしたい私。山奥ニートに注目しているのです。

番組では、山奥ニートたちが暮らす「共生舎」でカップルになった2人を取材していました。夫は山奥ニートにはめずらしく定収入があるようです。出産後、産後の肥立ちがよくない母親は育児放棄気味に描かれ、父親がせっせと働きます。日ごろお世話になっている近所のおばあさんにあやかった名前を赤ちゃんにつけたことで、当のおばあさんが精神的負担を感じ、夫婦に子育てを説くシーンがありました。

新米お母さんの言動に関しては、一緒にテレビを観ていた妻も怒っていたし、私もあまりいい気分ではなかった。リンクの記事にあるように、ネットでバッシングされているようです。

悪意ある編集がなされたのかもしれませんが、あのおばあさんが涙を流し、夫婦の子育てを案じたのは嘘ではないでしょう。

──私の感想を簡潔に整理すれば以下のとおりです。

「共生舎」では、組織などに順応できない人たちが限界集落に集まり、ときおりバイトをしながら、ゆるくつながって生きています。ざっと見たところ上下関係もなさそうです。そこの生活に合わない人は出ていきます。そこそこ繫がっているものの、互いに干渉しすぎず、貸し-借りが少ない人間関係が構築されているような気がします。

しかし、自分にあやかって赤ちゃんに名前がつけられたと聞いたことで、おばあさんに強い義務感が生じました。少なくとも、おばあさんの側では、貸し-借り(返済義務)が生じたのです。自分が子育ての面倒を見なければ、と感じてしまった。そのことを若い夫婦は理解できているでしょうか。

彼らにはまず、おばあさんの心理的負担を減らす努力が必要です。

子育てに関しては、アロペアレンティング(代理養育)について調べてほしい。人間は、もともと夫婦だけで子育てするんじゃないんです。あるピグミーの集団では、1時間に7、8人の大人が赤ん坊の面倒を見ていたと、『昨日までの世界』上巻に書かれていました。血縁的な小集団のできごとですが、山奥ニートもできるはず。赤ちゃんって面白いからね。

神宮外苑の樹木伐採

週末、30〜40キロ走していたころは、都内のいろんなところをグルグルまわっていました。だから東京のいろんな町の雰囲気や地形を肌で感じたつもりです。計画的に造られた町、火事が起きたら消防車が入れるんだろうかと心配になる路地だらけの下町、栄えている商店街、文化的な香り漂う町並み、古びゆく地区、などなど。……私と同じように東京をあちこち走ってきた人は、越澤明『東京都市計画物語』(ちくま学芸文庫)などを読むのも楽しいはずです。

★   ★   ★

先日、神宮外苑の樹木を1,000本も伐採する、というニュースが流れてきました。

「永続する生命の鎖」から自分を切り離し、他者の中で不安を感じる近代人は、大樹を見ると「それが自然であるゆえに近代人の自我に直接の挑戦をすることなく、しかも象徴的なイメージとして、個体を超えた生命の実感を与えてくれ」る──と、山崎正和が書いていました。

巨木は永遠の生の象徴であり、伐られるとあたかも自分の生命を奪われる気がするのでしょう。

神宮外苑は、明治神宮(内苑)と皇居の中間に位置し、聖徳記念絵画館など、明治天皇皇后を顕彰する一帯です。国立競技場・神宮球場・秩父宮ラグビー場なども含まれます。今は、多くの人がスポーツ施設のエリアと考えているのではないでしょうか。

もともと神宮外苑はどんな場所なのか。外苑のHPから引用しましょう。

明治神宮外苑は、明治天皇とその皇后、昭憲皇太后のご遺徳を永く後世に伝えるために、全国国民からの寄付金と献木、青年団による勤労奉仕により、聖徳記念絵画館を中心に、体力の向上や心身の鍛錬の場、また文化芸術の普及の拠点として、憲法記念館(現明治記念館)などの記念建造物と、陸上競技場(現国立競技場)・神宮球場・相撲場などのスポーツ施設が旧青山練兵場跡に造成され、大正15年(1926)10月に明治神宮に奉献されました。

f:id:mugibatake40ro:20220220233019j:plain以下、越澤明『東京都市計画物語』(ちくま学芸文庫)を参考に書きます。

崩御した明治天皇の陵墓が京都・伏見桃山に決定されると、東京では、代々木御料地を明治神宮(神宮内苑)に、旧青山練兵場に神宮外苑をそれぞれ建築することにしました。外苑の設計者は《日本の近代公園と公園行政の祖といえる》折下吉延でした。

(略)外苑の中央には明治天皇の一代を描く絵画をおさめた聖徳記念絵画館が建てられ、スポーツ施設が設置された。これは今日でも天皇杯が続いているようにスポーツも心身の鍛練を通じて明治天皇の業績を偲ぶ活動であるとみなされていたからである。
 明治神宮がすべて国費で造営されたのに対して、神宮外苑は民間有志によって結成された明治神宮奉賛会が国民の寄付金により造成したもので、完成後、その建物・施設のすべてを明治神宮の外苑として奉献したものである。(89ページ)

越澤氏は《東京で最も美しい並木道は神宮外苑の銀杏並木である》と評価しています。その理由は《パリのシャンゼリゼ、ベルリンのウンター・デン・リンデン、ロンドンのザ・モールなどその都市を代表する並木道(アヴェニュー)には共通するひとつの都市デザインの公理がある。つまり、アヴェニューの軸線上のヴィスタにシンボリックな記念建築物が置かれ》ているから、とのこと。東京でそれを実現しているのは、並木道の先に聖徳記念絵画館を設置した外苑の並木道だけだというのです。東京には珍しい4列の並木で、1列ごとに34本、都合136本のイチョウが植えられました。

1926年(大正15)12月22日に外苑は竣工し、奉献式が挙行されます。国民の献金は835万円だそうです。《明治神宮奉賛会(会長は公爵徳川家達)はこのとき明治神宮に対して「外苑将来の希望」という一文を入れてい》て、越澤氏は以下の一部を引用しています。[*太字は、著者・越澤氏が傍点を振っている箇所]

(1)外苑は明治天皇及昭憲皇太后を記念し、明治神宮崇敬の信念を深厚ならしめ、自然に国体上の精神を自覚せしむるの理念を基礎とし、一定の方針を以て設計造営せられたるものなるを以て、今後、之が管理及維持修理上に於ても常に右理想を失はざる様御注意あり度事。
(2)外苑は……上野、浅草両公園の如きとは其性質を異にするを以て、今後、外苑内には明治神宮に関係なき建物の造営を遠慮すべきは勿論、広場を博覧会場等一時的使用様するが如き事も無之様(これなきよう)御注意あり度事(99ページ)

明治神宮内外苑は風致地区第一号として、景観を守るように定められましたが、外苑は戦後、変貌を遂げます。写真は、国土地理院のサイトの空中写真より。写真のトリミングや地名を振ったのは私です。

f:id:mugibatake40ro:20220221131113p:plain

上から、1936年、1965東京オリンピック後、2020東京オリンピック直前の外苑です。

戦前、イチョウ並木の先には芝生が植えられ、相撲場の土俵と観客席はフラット(屋根と4本柱はある)、球場のスタンドも低く、見晴らしがいい緑の空間でした。

敗戦後、競技場はアメリカ進駐軍に接収され、メイジパークと呼ばれます。アメリカ人には明治の威光など無関係ですから、中央広場は球技場になりました。1952年(昭和27)3月の接収解除後も中央広場は復元されず、現在はサブトラックが造営されています。

1952年(昭和27)10月、政教分離政策にもとづき、明治神宮が宗教法人となり、内苑は無償で、外苑は時価の半額で明治神宮に払い下げられました。

外苑の陸上競技場はどうなったのでしょうか。

(略)神宮外苑は日本政府の東京オンピック開催という国策の犠牲となり、一九五六年一二月陸上競技場は国(文部省)に譲渡され、大スタジアム建設のために、競技場の周囲にあった緑のオープンスペースが破壊された(造営当初の姿は逆に、緑の中に競技場が置かれており、今日の状況は主客転倒してしまった姿である)。(100ページ)

『東京都市計画物語』は戦後の外苑を「無惨な姿」と表現していますが、2021年開催のオリンピックのために、明治外苑のはどんどん惨めさを増しました。そして、冒頭にリンクした記事によると、イチョウ並木以外の樹木はほとんど伐る計画のようです。

★   ★   ★

私は、2020東京オリンピックのゴタゴタ(ザハ案の撤回や買収問題など)が生じるたび「早く返上したほうがいい」と考えていました。旧国立競技場が壊されてしまったときは「新しい競技場を建てるのではなく、大きな公園を造るべきだ」とも。

新国立競技場はじめ維持費が今後いくらかかるかわからない巨額ハコモノがたくさんできあがり、そのうえ皮肉なことに、コロナにより観客席は空っぽのまま競技がおこなわれました。

想像してください。いま、新国立競技場の場所が公園で、たくさんの樹木にかこまれ芝生が植わり、一画にクロカンコースがあったりする空間を……。新国立競技場建設のために伐られた1500本の樹木も、住民が立ち退きを余儀なくされた霞ヶ丘アパートも、まだ存在するのです。《全国国民からの寄付金と献木、青年団による勤労奉仕》は100年経って無になるのか。

神宮外苑には、15メートルの建築制限がありました。新国立競技場を建てるために70メートルだか80メートルに緩和したのですが、それは特例ではなく、後に「誰かが金儲けするため」あの一帯を高層ビジネスビルに変える伏線だったのです。100年以上前に植えられた樹(永遠の象徴のシンボルである巨木)は、「誰かが金儲けするため」伐られて高いオフィスビルに変わります。

「誰かが金儲けするため」都合良くルールを変える──それすなわち行きすぎた資本主義=新自由主義です。金持ちは無限に儲け、弱者は食い物にされる一方。政府が競争を放置するので、日本の格差は広がり、景気は後退しています。このままカビ臭い資本主義を続けていくと、地価の高い東京から人が減っていくでしょう。先日、東京23区から30代が流出していると報じられ、「テレワークが浸透したから」なんてことを言う人がいましたが、とんでもない。みな東京では生活できないのです。

私は戦前の天皇=国体なんて復活してほしくはありません。緑が失われるのを惜しんでいます。

不思議なことに、「保守」を自称する人たちが再開発反対の声をあげません。このたびの決定に賛成した都議会の多数派も、自公や都民ファーストの、自称「保守」のはずです。彼らは《明治天皇及昭憲皇太后を記念し、明治神宮崇敬の信念を深厚ならしめ、自然に国体上の精神を自覚せしむるの理念を》有する神宮外苑を毀損するのに抵抗はないのでしょうか。儲かればいいのかな。