狩猟採集民のように走ろう!

狩猟採集民について学びながら、現代社会や人間について考えるブログ

損得勘定、カネとコネ

 何から何まで真暗闇よ
 筋の通らぬことばかり
 右を向いても左を見ても
 カネとコネの絡み合い
 どこに男の夢がある

(50歳以下には鶴田浩二の替え歌は伝わらないよなあ。古いやつだとお思いでしょうが……)

コロナと東京オリンピック騒動、お友だち案件がいろいろ炎上しています。プロフェッショナルがやるべき仕事を、与党界隈、広告代理店界隈、某人材派遣会社の仲間でまわして失敗するんです。

カネとコネ、すなわち自分と周囲の損得勘定だけで動く人たち。素人仕事で混乱することになっても自分たちが稼ぎたい。

どうして日本の政治やオリンピック組織委などには女性の比率が少ないかといえば、コネで結ばれた男性たちが、男性組織を維持するほうが既得権益を守れるからです。「女が入って来たら俺の取り分が少なくなるじゃないか」ってね。利権の完全なバブル方式。選手村のバブル方式は破れていますけど。チェアマン、じゃなかった、村長、どうするの?

自分や仲間がよければそれでいいだなんて、非常に「利己的」です。私の近年のテーマのひとつは「いかにして利他的な社会を目指すか」ですから、それに反する振る舞いと言えます。

驚いたのは次の発言です。サッカーU-24日本代表の久保建英選手は、南アフリカチームにコロナウイルス陽性者や濃厚接触者が多数いることについて問われ、こう答えたと言います。(→サッカーダイジェスト

「僕らにとってマイナスではない。僕らに陽性者が出ていたらマイナスですけど、いまのところゼロなので、自分たちのことに集中したい。こんなこと言っていいか分からないですけど、損ではない。自分たちのことにフォーカスしたい」

相手チームに感染者が出てしまったことを損得勘定にしています。フェアネスはスポーツには欠かせないというのに、不慮のアクシデントで不公平な状態ができたことをプラスかマイナスかで考えてしまうとは……。

オリンピックの騒動を見るたび腐った世の中だなあ、と感じます。

「すみません、道に迷ってしまって……。◎◎駅はどこですか」
「あの道をまっすぐ言って、突き当たりを右に曲がって、信号二つ目を左折です」
「ご親切にありがとうございます。助かりました」
「お安い御用です。……になります」
「は?」
「……えんになります」
「あのう、もう一度」
「道を教えた代金、税込み550円になります!」

──東京オリンピック開幕まで、あと0日
 

もしも「TOKYO2020」の2020が……

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前夜、「どうかマドリードかイスタンブールに決まりますように」と祈りながら寝た私は、2013年9月8日の朝に目覚めてテレビを点けました。

愕然としました。

IOCロゲ会長が「TOKYO2020」と書いたカードを見せ、招致委員会の面々が湧き上がる映像が映ったからです。現小泉大臣夫人の「お・も・て・な・し」とか現前総理「アンダーコントロール」とかいうスピーチも繰り返しワイドショーで流れていました。

復興五輪と言いながら、福島などの被災地に割くべきマンパワー・資材・資金などのリソースをオリンピックに回すというのです。クラクラしてテレビを消しました。SNSを見ると、友人たちが明るい話題だと喜んでいました。

東北大震災からずっと、私は鬱々と生きているのです。愉しいこともあるけれど、毎日、あの日のことを思い出しています。

安倍氏の「アンダーコントロール」発言については、翌2014年3月3日の参議院予算委員会で、民主党・那谷屋正義議員とこんなやりとりがありました。(→国会議事録

那谷屋正義 [略]それ[引用者註=アンダーコントロール]をお聞きになった福島県民がどう受け止められているというふうにお考えか、それについてお聞きをしているところであります。(発言する者あり)

安倍晋三 今、後ろの方からふざけんなよという話がございましたが、先般も私は福島県に参りました際、例えば相馬市の市長からは、水産物が大変な風評被害を受けている中においてよく言っていただいたという話もありました。
 ただ、我々は決して収束したとは言っていないわけでございますが、ただ、まだ汚染水の様々な報道がある中において、報道でコントロールできていないではないかという方々もおられたんだろうと、こう思うわけでございますが、要は、英語のプレゼンテーションの中において、大切なことは、あのときは、まさに日本はちゃんと対応できていないのではないか、事態も全く掌握できていないのではないかという中において、そういう国にはオリンピックを任せることはできないねという雰囲気があったのは事実であります。それをいかに私は、日本の総理大臣としてその雰囲気を払拭することができるかどうかが私のスピーチのポイントでございましたから、そのところにおいて、私は責任者としてそれはしっかりと事実を掌握をして対応していますよという意味においてコントロールしていますよということを申し上げたところでございます。

 つまり、「あのスピーチのポイントは放射能の影響を過小に見せること」であり、「嘘も方便でした」と言っているのです。

★   ★   ★

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招致成功と聞いてショックを受けた朝から8年近くが経ちました。

「東京オリンピックの年まで生きていられるかね」という高齢の知り合いが何人かいらして、「彼ら彼女らの生きる張り合いになるなら、東京オリンピックがあってもいいかな」と感じたりもしましたが、ほとんど鬼籍に入られました。

今回の騒動で、「平和の祭典」とかいったお飾りは吹き飛び、欲望だけが剝き出しになっています。ほんと、こんなのでいいのでしょうか。

すでに一部の競技では予選がスタートしているようです。明日7月23日ははいよいよ開会式なのに、開閉開式のディレクター小林賢太郎が解任されたり、選手団にコロナ感染者が出たりと、バタバタが続いています。

この国にあっては、コロナウイルスもアウトオブコントロール。水際対策もバブル方式もできません。IOCは感染者が何人出てもいいんです。前にも書いたとおり、大会を開いてやりとおせば勝ち。放送権料などが入って来ます。菅政権は選挙のことしか頭にないので感染者が増えるのはちと困りますが、1人でも多くの選手にメダルを獲って国民が昂揚するのを願っているはずです。

東京都の新規感染者はぐんぐん増え、22日は1979人。

もしかして、ロゲ会長の「TOKYO2020」とは……新規感染者2020人という意味だったのかも!?  いやいや、失礼しました。悪い冗談です。

本日からオリンピックに合わせて4連休。ニュースでは、空港、新幹線、高速道路などが混雑していると報じられました。小池百合子都知事はうちにいろと言いますが、オリンピックやってんだもんな、みんな夏を満喫したいのです。来月初旬は地方の感染者も増えるでしょうが……。

オリンピック反対。

──東京オリンピックまであと1日。

オリンピックとメディアの歴史

オリンピックの歴史は、メディアの歴史でもあります。

1900年代、日本では新聞が部数を伸ばしはじめます。新聞が初めてオリンピックを報じたのは1908年ロンドン大会。当初、オリンピックは万国博覧会の一部としておこなわれていて、大阪毎日新聞社の海外派遣員・相嶋勘治郎が万博に行ったついでに入場したそうです。日本人が初めて参加した1912年ストックホルム大会には、大阪毎日と讀賣新聞が記者を派遣、万朝報はスウェーデン特派員と自費で大会を観戦した広島の広陵高校教員・藤重源の記事を掲載します。他の媒体は通信社の記事を掲載したとのこと。 

1924年第8回パリ大会で、世界初のラジオの生中継が行われました。同年フランスのシャモニーでおこなわれた初の冬季大会で、準実況風、疑似生中継(後述する「実感放送」みたいなもの)によるラジオ放送があったかもしれない、とのこと。日本はもう少しあとの話です。

大正後期、日本は君民一体の意識が根づき、超国家主義(ウルトラ・ナショナリズム)へと移行します。久野収という学者は、1921年(大正10年)、皇太子裕仁の令旨に感激して朝日平吾がテロを起こしたことを超国家主義の始まりと書いています。

日本の報道体制は1928年アムステルダム大会まで似たようなものだったそうですが、1932年ロサンゼルス大会には、日本はアメリカに次いで131人もの選手団を送っています。全国紙、地方紙ふくめ60人の記者(現地特派員ふくむ)が取材にあたり、速報を争ったそうです。

毎日新聞は「開会直前までは20分もかかっていた至急電の記録を最短 1 分半とし,ほとんどの号外で他社を退けたという。1 分半という数字は多少誇張されてい るようであるが,アメリカ国内でオリンピック・ニュースのために有線・無線の通信設備が整備され,大会直前にラジオ・コーポレーション・オブ・アメリカと逓信省の協議により日米間の短波送信受信が一回線増えたことから,オリンピックを契機に,日米間の通信速度は大幅に短縮された。アムステルダム大会までは発行していなかった号外も次々に発行され,『東京朝日』のロサンゼルス大会に関する号外の数は,15回,最も多いときには1日に3回も発行されている。(浜田幸絵)

写真やニュース映画をどれだけ早く入手するかも争われました。《洋上に浮かぶ船に小型飛行機で近づき、決死の「フィルム釣り上げ作戦」を刊行し》たと沢木耕太郎『オリンピア』(集英社文庫)にありましたね。技術向上とナショナリズムが相俟ってオリンピック熱が高まっていったのだと思います。

日本でラジオ放送が始まったのは、1925年。NHKの前身である東京放送局が誕生しました。1932年ロサンゼルス大会では実況放送をするはずでしたが、放送権料の関係で、「実感放送」を発案します(ただし、参考3の論文では、この手法が以前からあったと指摘します)。現地で試合を見たアナウンサーがメモをもとにアメリカのスタジオで疑似実況をするのです。暁の超特急・吉岡孝徳選手が走った短距離100mの実感放送は、10秒余りで終わるはずなのに1分以上かかったというエピソードは有名です。

1936年ベルリンオリンピックでは、ラジオは生中継が叶いました。ロサンゼルスで実感放送をしたなかの1人・川西三省アナウンサーは「前畑ガンバレ」を連呼します。初めてレニ・リーフェンシュタールの記録映画を観たとき、どうして日本語の前畑ガンバレが入っているのか不思議でしたが、あの映画は公開される国によって編集を変えているのだと、これも沢木氏の本で知りました。

ベルリン・東京間では、画像が粗かったそうですが、写真電送が実現します。有線電信、無線電話、国際電話などがどんどん発達していきました

テレビの歴史はみなさんご存じだから短めに。

1936年ベルリン大会で、ヒトラーはすでにテレビ中継をやっています。生中継は72時間だったとか。日本でも1940年東京大会をテレビ放映するつもりでNHKが高柳健次郎を招いて研究するも、大会返上とともにテレビ事業は頓挫します。

1952年ヘルシンキ大会から敗戦国・日本のオリンピック参加が認められます。日本では1953年にテレビ放送が開始されますが、1963年まで衛星放送がないのだから生中継は見られません(初の日米宇宙中継が映したのはケネディ暗殺でした)。したがって、1960年ローマ大会では映像より他メディアのほうが早かったのです。

画期的だったのは1964年東京大会で、史上初のカラー放送、アメリカでの衛星生中継となり、初めてテレビのオリンピックになりました。当初、オリンピックに関心が薄かった日本人も、初めて生中継で見た日本人選手の活躍を見てウエイウエイと喜んだのです。

ハイビジョンだの4Kだの8Kだの、5Gだの、SDGsだの、大型スポーツイベントを取り巻く状況は刻々と変わっていきます。しかし、私は今や脱成長派だし、今回の件でオリンピックが憎らしくなってきました。選手のみなさんに恨みはないので応援していますし、がんばってほしい。私は20世紀初頭のように、ときどきラジオで結果を知ることにします。

──東京オリンピックまであと4日。

 

【参考】

  1. 「戦前日本のオリンピック」浜田幸絵(コミュニケーション科学 2010-10-13→CiNii

  2. 「オリンピック放送の原点」脇田素子(スポーツ史研究 2015 →CiNii。リュミエール兄弟がシャモニー、パリ両大会の記録映画を撮っているとのこと。もっと古い、ロンドン万博の一環としておこなわれた1908年ロンドン大会の映像もあるそうです)

  3. 「放送史への新たなアプローチ(3)「実感放送」伝説の背景 : 日本初のオリンピック"実況"を再検証する」(放送研究と調査 67(5), 2017-05)CiNii 

毎日の燃料投下

毎日のように燃料が投下される

オリンピック開会式の曲をつくる小山田圭吾という人が1995年の雑誌で、障碍者をいじめをしていたと得々と語っていたことが話題になっています。私はこの人を知りません。日本を代表する作曲家とは思えませんから、いつものお仲間かな。日本はコネ社会ですから。1995年はまだこんな記事が載っていたんだ、と出版コンプライアンスの勉強にはなりました。オリンピック憲章というオリンピックの建前からすれば、大会に関わるべきではないと感じますけど、「コロナでも猛暑でもなにがなんでも儲けたい」が本音の大会だと思えば、この方がふさわしいかもしれません。

安倍政権から菅政権に至るまで、へんなことがたくさん起きます。オリンピックが近づくたび毎日のように国民感情を逆撫ですることが起きます。都内では、無観客になったというのに首都高は1,000円上乗せしたり、オリンピック専用レーンができたりするそうです。迎賓館ではバッハの歓迎会がおこなわれましたが。

ただいま緊急事態宣言下。用事があり、本日夕方ちょっと街に立ち寄りました。みんなマスクをしていますが、人出はコロナ前と同じでしたよ。ま、そらそうだ。オリンピックやります、貴族たちは広島往復したり40人の歓迎会やったりします、みんなうちにいてください、なんて理屈は通りません。

思いつくかぎり列挙してみます

全部は記憶していませんが、オリンピックのゴタゴタを思いつくかぎり列挙してみましょう。(思い出したら追記します)

  • コンパクト五輪というウソ
  • 7/25から8/9の東京は温暖で理想的な気候というウソ
  • 汚染水はアンダーコントロールというウソ
  • アスリートファーストというウソ
  • 裏金招致疑惑エンブレム盗作疑惑→撤回
  • 競技場のザハ案撤回
  • 新国立競技場の屋根問題
  • 新国立競技場の聖火台問題
  • 霞ヶ丘アパート強制退去
  • 暑さ対策問題──雪・朝顔・笠・熱くならないアスファルト
  • 東京湾トイレ状態問題──海にアサリ投入
  • ボランティア問題
  • マラソンと競歩が北海道に
  • オリンピック、パラリンピック1年延期
  • 新型コロナ対策問題医師・看護師ボランティア確保問題
  • 森喜朗会長の女性蔑視発言
  • 佐々木宏氏の女性タレント「ブタ」呼ばわり
  • 聖火ランナー辞退続出
  • バブル方式の失敗
  • 無観客開催
  • IOC貴族問題
  • 小山田氏問題

我々はこれらをしっかり記憶しておかないとなりません。

──東京オリンピックまであと5日。

バッハファースト

画像はこちらから頂戴しました。

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東京の感染がえらいことになってきました。7月17日土曜日は1410人。先週土曜が950人でしたからほぼ5割増しです。1週間単位で見ても、先週より40%増となっています。

IOCバッハ会長は昨日広島へ、コーツ副会長は長崎へ。原爆資料館などを見学したそうです。広島のオリンピック反対デモのみなさん、お疲れさまでした。私も行けるものなら行って、「早よ〜去(い)ねえや」とおらび(叫び)たかったけど、こちとら広島への帰省も控えてるのです。バッハめ、あっちゃこっちゃ動き回ってからに。

政府や東京都、腹の立つことに飲食店の種類提供をストップしました。西村康稔大臣は「金融機関に監視させて違反する店への融資を止めろ」なぞという無茶なことを発表、バッシングされています。日本政府の劣化ぶりがスゴイんです。底が抜けたというか、なんというか。

あれほど「バブル方式」なんて言っていましたが、来日する選手たちは一般客とほぼ同じ導線で飛行機から出てきているようです。きのうの数字でしょうか、大会関係者が15人感染し、うち1人は選手村とのこと(→NHK)。

このグダグダ感で思い出されるのは、クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の対応です。岩田健太郎医師にゾーニングできていないと批判されたのを受け、某厚労副大臣が2020年2月20日にTweetしました。「ちなみに、現地はこんな感じ。画像では字が読みにくいですが、左手が清潔ルート、右側が不潔ルートです。」とアップしたのが次の写真でした。

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同じ通路を通って二手に分かれることをゾーニングとは呼びませんし、なんだ「不潔ルート」って……?

以来、1年5ヵ月経っているというのに、水際対策もゾーニングもできず、同じようにアタフタしているのです。もちろん、空港で働く方や選手村のスタッフのみなさんは頑張っておられるはずですが、指示する立場の人たちがなあ……。

18日、迎賓館にてバッハ会長さまの歓迎会があるそうです。40人が集まるとか。そりゃあ、都民は外を動き回るし、感染者も増えますよ。

──東京オリンピックまであと6日。

感動は How much?

なにかのオリンピックで、スタンドにいた日本人観客が「感動をありがとう」という手書きのボードを並べて掲げていました。

それを見た瞬間、私は気づいてしまったのです、かねがねあやしく感じていた「感動をありがとう」なる定型句は、試合の結果に関係なく使える便利な言葉であることに。メダルを獲っても敗退しても「感動をありがとう」です。柔道の会場から水泳の会場に行き、同じボードを掲げることもできちゃいます。

だいいち「感動をありがとう」って身勝手ではありませんか。観客は選手の勝敗やプレー内容にはいっさい言及せず、自分が感動したかどうかを基準にするのです。

ありがとうがお金を生んだ?

何度か書きましたが、狩猟採集生活している人たちは、誰かが動物をゲットしたら集団のみんなと平等分配します。もらった人びとはいちいち「ありがとう」と言いません。

「俺がシカ5頭を獲ったあいだに、お前は1頭しか獲ってないじゃないか」なんて貸し借りを始めたら集団が成立しません。猟が下手な人は弓づくりや歌やダンスがうまいかもしれず、したがって狩猟とは別の形で集団に貢献しているかもしれませんが、シカ肉何キログラム貸しがあるから何曲歌え、なんてややこしい。

定住し、農耕をはじめたどこかの段階で「ありがとう」という言葉が生まれました。すると、「こないだムギを500グラムあげたら一回『ありがとう』と言われたので、2倍もらったときは2度『ありがとう』と言わなきゃ。待てよ、牛乳1リットルもらったときは、ムギ何グラム分の『ありがとう』にしなきゃならないのか?」てなことになります。

一説によると、「ありがとう」は貸し借りや負債に結びつき、負債という意識はお金を生んだのだとか。

何百万年も続いた狩猟採集生活では負債を考えないほうがうまくいくと考えたのではありますまいか。しかし、いつしか人間は禁断の損得勘定を始めてしまいました。

現代は、なんでも金に換算します。「◎◎さんのお葬式、いくら包む?」「そうねえ、私たちはいろいろとお世話になったから◎万円かなあ」。後日、香典半額相当のお返しが来ます。

感動は金になる

田舎芝居や『24時間テレビ』を観ればわかるように、感動はお金になります。安直なストーリーで泣かせるテレビドラマなどは、かつて「お涙頂戴」とバカにされていましたけど、陳腐であれ、感動させればお金が落ちます。

スポーツをお涙頂戴のレベルまで落としているという意味でも「感動をありがとう」は不快だったんですけど、しばらくすると選手自身が「感動を与える」と言いはじめました。ひとの感動なんてどうでもいいから自分のためにやんなさいよ、と言いたくなりますが、みんな「感動」が商品になることを知っているのかもしれません。

オリンピックを観るみなさんは、勝っても負けても「感動をありがとう」と言いなさいな。感動はカネを生み、中抜きされたあと、選手に還元されるでしょう。そう、選手も搾取されているのですよ。勝利した一部のアスリートは議員になって搾取する側にまわるかもしれませんけど、橋本聖子組織委委員長をご覧なさい。国務大臣経験者であるというのに、まるで誰かにあやつられたような話しぶりです。

──東京オリンピックまであと8日。

惨事と祝賀──『オリンピック秘史』

ジュールズ・ボイコフ『オリンピック秘史』(早川書房)、たいへん面白い本です。著者は政治学者であり、元プロサッカー選手(アメリカ代表)とのこと。原著は2016年、邦訳(中島由華・訳)は2018年に刊行されています。したがって近代オリンピックの草創期から書かれる本書は、2016年リオデジャネイロ大会および2024年夏季大会の招致活動あたりで終わっていますが、日本語版への増補もあります。

商業化されたオリンピック

いろんなエピソードやオリンピックの変遷について書かれていますが、それらは本を読んでいただくとして、近年の商業化されたオリンピックについて──。 

1984年ロサンゼルス大会はオリンピックパートナープログラム(のちのワールドワイドオリンピックパートナープログラム)という制度が考案されました。大口スポンサーになれば、企業はオリンピックを象徴するマークの使用権を手に入れられるというものです。これにより大会の収入が膨れ上がりました。スポンサー契約が全体の45%を占め、放映権料は50%、入場券の収入は5%となったそうです(今回の大会もそのままだとすると、無観客ってそれほど損をするわけではありませんね)。

以後、オリンピック招致のやりかたは次のようなパターンを踏襲するらしい。

招致委員会は、市民や国民に「開催費はとても安くつく」と説明、最近は招致に際し「エコロジー」や「持続可能性」などの建前も使うそうです。IOCにはたっぷり裏金を渡します。開催地として選ばれたとき、盛られた経済効果が出てくるのもいつものこと。大会が近づくにつれ開催費はどんどん膨らんでいきます。施設建設のための強制退去や先住民の土地の強奪を行います。最近では、ロシアや中国はもちろん、民主主義国家であってもテロ対策などを理由に市民監視システムが強化されています。

祝賀資本主義と惨事便乗型資本主義

ひとがお祭り騒ぎで喜んでいるところを利用して稼ぐことを祝賀資本主義と呼ぶのだそうです。災害などに乗じて稼ぐ惨事便乗型資本主義と同じく、例外状態に乗じ、官と民が一体となり公金を懐にいれることだと説明されます。

 祝賀資本主義は惨事便乗型資本主義の優しい親戚のようなものだ。集団的なショックではなく、社会的な多幸感につけこんで発展するのである。この二一世紀には、景気の激しい浮き沈みや大不況があった一方で、祝祭の瞬間も訪れた──少なくとも、利益を追求する資本家の目から見ればそうだった。国際的な祝祭であるオリンピックは、メトロノームのように規則正しく開催され、政治的立場や社会階級にかかわらず、大勢の人びとを狂喜させる。(略)楽しい浮かれ騒ぎの裏には罠があって、一般の納税者はリスクを負い、民間企業は儲けをごっそり持っていく。

オリンピックで膨らんだ赤字はどうするのか? 税金でまかないます。デベロッパー、建設業界、スポンサー企業、広告会社、竹◎平◎、メディアなどなど、受益者には公金がジャラジャラ流れてくるというわけです。政治家への環流も当然あります。国民は、本来公共サービスに使われるはずの税金を一部の権力者や富裕層に掠め取られるばかりでなく、監視が強化されるなどの不利益をこうむるのです。

例外状態が重なる

まもなく強行される東京大会のことを考えてみます。

招致の手順は2020東京大会とて同じでした。猪瀬直樹元都知事が「世界一カネのかからないオリンピック」と胸を張ったけど当初予算7000億円は今や3兆円まで膨張(それ以上でしょう)、海外からの観客がないのでホテルなどには金が落ちません(とはいえ、もともとオリンピック開催都市を一般観光客は避けるというのが現実です)。しかし東京は監視社会にはならないだろうって?……都心部には監視カメラを増やしていて、大会後もそのままにするそうです。安倍晋三前首相が「これがないとオリンピックが開けない」と言って、議論が深まらないままテロ等準備罪(共謀罪)を強行採決したことも忘れてはいけません。

いや、しかし、それだけなら今までどおりの商業オリンピックと同じです。

今回は決定的に違います。なぜなら、終熄しないコロナの惨事とオリンピックの祝賀──例外状態が同時進行になるからです。かつてこんなことがあったでしょうか。

日本でも第五波が高くなりつつあるところ。惨事便乗型資本主義が進行中です。水際対策もせず感染経路も追わずアプリもつくれず補償も薄くワクチンも滞る日本のコロナ禍にあって、飲食店は体力を奪われて閉店を余儀なくされ、雇い止めなどで困窮する人たちがいます。一方、そんな状況下でも、使い物にならなかった布マスクやアプリに何百億もの公金が投じられ、政府に近いいくつかの民間企業は上前をハネて儲けているのです。

そこにオリンピックによる祝賀資本主義が加わるんだからたまりません。「緊急事態宣言下です。うちでテレビを見てください」と「外国人選手団、外国人プレスの方、ようこそ」と言うこのカオス。私はパラレルワールドを同時に見ているようでクラクラしますけど、オリンピック利権と同時にコロナ利権を持っている人は正気を保っているらしく、二重に稼ごうとしています。ジュールズ・ボイコフさんならどう評価するでしょうか。

人の命や健康を賭けた、とても壮大な社会実験です。国民は、二重の例外状態かつづく大会期間をどういう心理で過ごすのでしょう。冷静に観察することにします。オリンピック反対。

──東京オリンピックまであと11日。