大谷翔平と少年野球
MLB、エンジェルス・大谷翔平選手、今季最終戦で46号ホームランを打ち、100打点に到達しました。お見事です。ホームラン王には2本、二桁勝利には1勝及ばず、残念でしたが、今年がピークではないと考えたい。来シーズン以降も頑張ってください。
ところで──。
何年か前のある日、ジョギング中に休憩して少年野球の試合を10分くらい見ていたんですよ。当然ながら未熟な選手が多く、かわいい。打つのも守るのも未熟ですが楽しかった。以前、たまたま散歩中に球場に入って観戦した弱小同士の高校野球地方予選を見たときも面白かったことを思い出します。凡フライを落としたりするから、バットに球が当たれば何が起きるかわかりません。
少年野球を観ながら、ふとこんな疑問が湧いたのです。
メジャーリーグやプロ野球に負けず劣らず、素人野球の観戦が楽しいのはなぜか?
大リーグはムキムキの男性たちが投打や守備でスーパープレーを披露しますが、今年6、7月の、絶好調だった大谷翔平を見ていると、ホームランや長打を量産する大谷選手がまるでサイボーグに見えました。活躍が楽しくないわけではないのです。しかし、ジョギング中に眺める少年野球、草野球、高校野球、還暦野球、少年サッカーなどの、未熟な選手のプレーも負けず劣らず楽しいのです。
内緒で書きます。
もしかして完璧なものって案外つまらないのではないか──?
イチローの引退会見
イチローが2年前の引退会見でこんなことを言っていました。ご記憶でしょうか。
「2001年に僕がアメリカに来てから、この2019年の現在の野球は全く別の違う野球になりました。まぁ、頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつあるような……。選手も現場にいる人たちはみんな感じていることだと思うんですけど、これがどうやって変化していくのか。次の5年、10年。しばらくはこの流れは止まらないと思うんですけど。本来は野球というのは……ダメだ、これ言うとなんか問題になりそうだな。問題になりそうだな。頭を使わなきゃできない競技なんですよ、本来は。でもそうじゃなくなってきているのがどうも気持ち悪くて。ベースボール、野球の発祥はアメリカですから。その野球がそうなってきているということに危機感を持っている人って結構いると思うんですよね。だから、日本の野球がアメリカの野球に追従する必要なんてまったくなくて、やっぱり日本の野球は頭を使う面白い野球であってほしいなと思います。アメリカのこの流れは止まらないので、せめて日本の野球は決して変わってはいけないこと、大切にしなくてはいけないものを大切にしてほしいなと思います」
(→Ful-Countより)
例の調子ですから、会見を生で見たときは何を言っているのかわからなかったんですけど、しばらくして理解できました。現在、「フライボール革命」や「スタットキャスト」など、大リーグのビッグデータ活用を批判しているのです。
大リーグでは、投手が放ったボールのスピードや回転数や軌道、打者が放った打球の角度やスピードなどが瞬時に数値化されます。それらのビッグデータは守備位置にもあらわれます。大谷は引っ張る傾向にあるから、みんなセンターにむかって右にシフトします。セカンドゴロかと思ったら、セカンドベースより右に守っていたショートが処理していたりするのです。すべてビッグデータを元にベンチから指示されています。
イチローが「まぁ、頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつあるような……」とは、データをもとに選手が駒になる弊害を指摘しているわけです。
大谷はサイボーグではなかった
シーズン終盤、大谷は苦しんでいました。敬遠や四球の多さもさりながら、ホームラン王を狙って力んでいるのか、強振することが多かった。好調時には、逆らわずセンターにフライを打てて、上体が開くためか、外角のボールを投げられると腰が引け、引っかけていました。最後のホームランも、ボールの中心近くをはじいたライトへのライナーでしたね。
でもね、私はじつは少し安心したんです。大谷はサイボーグではなかったから。
投じられた球に、無意識に反応してバレルゾーンを証明するホームランを打ち、ゆうゆうとダイヤモンドを回るバッティング・マシンではなく、精神的なことでフォームを崩す人間でありました。ホームラン王ではなかったとか、投手として10勝に届かなかったとか、そういうのも人間らしいではないですか。
──少年野球や弱小高校野球の面白さは、人間味なのだと思うのですよ。大リーグがサイボーグ集団になってしまうとつまらない。
そんなことを大谷は考えさせてくれました。
この話、続きます。