狩猟採集民のように走ろう!

狩猟採集民について学びながら、現代社会や人間について考えるブログ

映画『デルス・ウザーラ』

原作につづき映画『デルス・ウザーラ』(1975年、ソ連・日本合作映画)のDVDを入手し、走るのをサボって観ました。

監督は黒澤明、出演・ユーリー・ソローミン(アルセーニエフ)、マクシム・ムンズク(デルス・ウザーラ)です。

完璧主義で権威的なイメージのある黒澤明監督ですけど、作品に共通するのはときに過剰とも思えるヒューマニズム・人間讃歌です。都会的で洗練された作風ではなく、泥臭く、汗をかいた男たちが多いことも特徴でしょう。女性が主役の「わが青春に悔なし」もありますが、あの原節子を土まみれ・汗まみれにさせたのには驚かされました。

黒澤がアルセーニエフの原作に惹かれたのはわかる気がします。ドキュメンタリーを意識してか、珍しく抑制的な演出です。前作『どですかでん』を想起するシーンもありましたけど、黒澤のカラー映画のなかでは原色があまり出てきません。密林の季節の移り変わりを丹念に描いています。

自然と生きるゴリド人デルスと、彼の言動に心打たれるロシア人アルセーニエフの友情の物語です。アルセーニエフは極東ロシアの土地を調査する役目を負って旅するなか、デルスと出会いました。ふたりは、1902年、1906年、1907年の3回、いっしょに極東ロシアを探検しています。映画では二度旅することになっていました。

アルセーニエフを「隊長(カピタン)」と呼ぶデルスですが、彼らに主従関係はなく、対等な友だちとして互いに信頼しています。デルスは平等分配主義であり、利他的であり、動植物について知悉し、自然を自分と区別しません(彼は、太陽も月も火も水も風も熊も虎も「人」と呼びます)。つまり、私が過去に読んできた狩猟採集社会の精神をそのまま持っています。都市生活者が持ち込んだ病気で多くの先住民が命を落としましたが、デルスもロシア人が持ち込んだであろう病気(天然痘)で家族を失い、今は天涯孤独のハンターです。

彼は最後にハバロフスクのアルセーニエフの家に迎え入れられますが……。

良い映画でした。140分の大作ですけど、デルスの活躍を描くには短い。原作のエピソードはカットしてほしくないくらい全部面白いんです。虎とデルスの関係はきちんと説明してほしかったなあ。 

ちなみに──私は映画がどんな賞を獲ったかで自分の評価を変えませんが──1975年のモスクワ国際映画祭最優秀作品賞やアカデミー賞外国語映画賞を受賞、キネマ旬報ベスト・テンでは外国語映画部門の5位に入っています。

デルス・ウザーラ (完全期間限定生産) [DVD]

デルス・ウザーラ (完全期間限定生産) [DVD]

  • 発売日: 2013/04/05
  • メディア: DVD