狩猟採集民のように走ろう!

狩猟採集民について学びながら、現代社会や人間について考えるブログ

『40代から最短で速くなるマラソン上達法』……と義憤。

40代から最短で速くなるマラソン上達法 (SB新書)

40代から最短で速くなるマラソン上達法 (SB新書)

 

インターミッテント・トレーニングについて書かれている本があるとネット検索で知り、取り寄せてみました。本間俊之『40代から最短で速くなるマラソン上達法』(SB新書)です。

SB新書のマラソン本って玉石混淆です。吉岡利貢さんの本など何冊かは繰り返し読んでいますが、正直「こんなん、よう本にしたな」と感じるほど内容の薄いものもあります。タイトル長くて覚えられないのは共通していますね。

『40代から最短で速くなるマラソン上達法』の著者・本間さんは、48歳で走り始め、53歳9か月でフル2時間44分03秒(東京マラソン)という記録を持つ市民ランナーだそうです。1963年生まれだから、私より二つ年上です。

玉か? 石か? よよいのよい。

おそるおそる斜め読みしました。本文の級数(文字のサイズ)が異様にでかい。^^

ま、異色ではありますが「石」とは思いません。

ご自身もあとがきで書かれているように、タイムを伸ばす方法は十人十色であり、自分に有効な手段が1年後に変わっている可能性もあります。したがって、この本では、過去にご自身が読んだ本、体験した練習会などでのトレーニングのうち「そのときどきの自分に有用だったもの」を選別して列挙しているのでしょう。

田中宏暁先生の『賢く走るフルマラソン』がバイブルだとおっしゃっていて、うれしくなりました。インターミッテント・トレーニングも好意的に紹介されていますが、こういうの、田中先生の著作で読みたかったなあ、と思わないでもありません。『ランニングする前に読む本』にも書かれていませんから……。

異色であるのは、まさしく田中先生ほか、他の人が書いた練習法を「いいとこどり」で紹介しているからですが、オリジナルの著者が納得されていれば問題ありません。「速くなったある市民ランナーの体験談」として読めば、充分刺戟的です。

みんな、いろいろ情報を集めて試行錯誤じゃないかって本です。著者のように先入観なくなんでも素直に試してみましょう。私も書棚にあまたあるマラソン本を見直してみようかな。

 

ところで。

Amazonでこの本のレビュー見ていたら、「著者はもともと才能があった。この本は参考にならない」みたいなクソレビュー(下品な言葉遣いですみません)が散見されるんです。ほかの本でも同じようなのを見かけました。そういう人には、自分が何年間どんな努力をしてどうダメだったのか、具体的に書いてみろと言いたい。

人類進化生物学教授ダニエル・E・リーバーマンは、ヒトがほかの動物より優れているのは持久走だけだと書いています。100mをウサイン・ボルトより速く走る野生動物はいますが、フルマラソンを走り切る動物はいないのです。そういう意味でいえば、才能があるかないかに議論の余地はありません。問題は、人間に備わっている才能を伸ばすか伸ばさないか、だけです。

知恵をしぼって努力した人に向かって「もともと才能があったんだよ」と毒づき、思考停止に陥る態度って許せんな、と義憤にかられたのでありました。

インターミッテント・トレーニング実践

田中宏暁先生の理論にしたがって練習する人体実験。

萩往還ウルトラマラニックも終わり、「全力坂道ダッシュ4本」と「インターミッテント・トレーニング」を交互に繰り替えすことにしました。できれば中2日で。

坂ダッシュは今まで何度となく取り組んだ練習で、5月9日にもやったんですが、インターミッテント・トレーニングは初の試みです。《最大酸素摂取量の100%の強度で1分間走り、ゆっくりジョグで4分間つなぐ。これを12〜15本》というこの練習、果たしてできることやら。

どんなもんかと、4月29日に8本だけやってみましたが、レストの4分が私には速すぎてつらかった。おそらく田中先生の意図は、緩走4分はゆるゆるジョグで回復にあてろという意味です。

田中先生によると、フル3時間の人は設定ペース3:35/km。私はサブ3みたいな大それた目標は立てていませんが、4月29日に経験したところ大丈夫そうなので、生意気にも3:35/kmに設定しました。

 

ガーミンのインターバル機能を利用して、スタート。

薄暮から夜になる時間帯で、やや視界が悪い。自転車が来るたびこちらを気づいているかどうか確認しながらでした。力をこめてスピードを上げるのではなく、全身リラックスして、重心移動に気をつけます。地面を蹴り上げてアキレス腱に負担をかけないよう、離地した脚の踵が、膝裏を追いかけるようなイメージ(蹴らずに戻るほうを強く意識)したりました。

レスト4分をしっかり、6:40〜7:00/kmペース(550mくらい)に落としたので12本こなせました。走った距離は10km。ログを見ると、1分走は毎回290〜300m(3:20〜29/km)でした。

ひさしぶりに「やったった」感ありありでしたが、よく考えたら、3,600mしかスピード上げてないんですね。

1分走なら、苦しくなるかどうか……というところで終わりますこれで心肺能力が高まるのかわかりませんが、田中宏暁先生を信じることにしたけんね。マラソンは科学だ!

5月6日、雨の広島をぶらぶら。

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広島のラン仲間と参加した萩往還ウルトラマラニック、無事終わりました。

実家に一泊した翌朝父親の墓参りをし、市内を散歩。

連休の最終日5月6日です。

まずは平和公園。写真は原爆の子の像です。原爆により発症した白血病の快癒を願い千羽鶴を折りつづけた少女・佐々木禎子さんをモデルにしています。少女が亡くなったのが1955年10月、この像が建立されたのは58年5月5日とのこと。つまり、この日の前日が完成60年なのでした。リンクは毎日新聞です。

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少し歩いて原爆ドームへ。

最近の若い人は、日本がアメリカと戦争をしたことを知らないとか、原爆記念日がいつかわからないとか……。私が子供のころは、学校の先生が被爆者であったり、原爆二世の同級生がいて、原爆はもっと身近でした。惨禍の記憶をわれわれが継承しなければなりません。

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原爆ドームと道をはさんだ旧広島市民球場跡地には「勝鯉の森」という一画があり、カープの優勝記念碑のほかに、衣笠祥雄の連続試合出場記録をたたえるレリーフがあるのです。衣笠が亡くなったのは、今年4月23日。多くの花が手向けてありました。

旧市民球場跡地では、肉とビールのイベントが行われていました。しかし普段は、ただの大きな空き地です。ここに、なぜサンフレッチェ広島のサッカー専用スタジアムが建たないかなあ。原爆ドームがサッカーの観客やテレビ視聴者の目に映ることは、とても大事なことなのに。

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ところで、急に広島弁になるがのう。萩往還ではビールやらお弁当やらで炭水化物過多じゃったけど、広島に帰る前に1枚くらいお好み焼き食わにゃいけまあが、ゆうことで、本通り抜けて「薬研堀 八昌(食べログ)」へ行ったんよ。午後3時くらいじゃったけん、空いとったわ。

肉玉いか天そば&ビール。

ああ、腹太った(おなかいっぱいになった)。

わしゃ、食事の写真をアップしないのがポリシーじゃけ、お好み焼きの写真はなし。写真の20分前、鉄板のうえに載っとったお好み焼きを幻視しんさい。

広島の人はお好み焼きからヘラで直接お好み焼きを食べるンよ。ほいじゃけ、水分がとんでいき、最後のカリカリの一切れを食べるのが至福なんじゃ。

さあ、去(い)ぬるで……と書いて広島弁終了。

広島駅発の新幹線に乗ったので、入線15分前に並んで自由席に座れましたが、東京までぎゅうぎゅう詰めでした。夜中に家に着いて、ほっと一息。


萩往還、ラストは35kmの部。飲んで笑った!

第30回萩往還ウルトラマラニック35キロの部を楽しんできました。A、B、CおよびFは部門です。

A250kmの部が5月2日18時スタート。制限時間48時間。
B140kmの部は5月3日18時スタート。同24時間。
C70kmおよびF歩け歩け35kmの部は5月4日6時スタート。同12時間。

どの部門も、5月4日18時がリミットです。いろんなレベルの人たちも並んでフィニッシュできるおもしろい大会ですが、残念ながら今年をもって最後となります。

記事を引用します。

(略)主催する実行委員会は70代以上が中心で、大会運営のノウハウを若い世代に引き継ぎにくくなった。参加者の栄養補給場所にしていた飲食店の閉店や、仮眠場所にしていた体育館がある学校の閉鎖といったコース上の課題も生じた。そこで30回目、そして維新150年の年に合わせて、大会の終了を決めた。

以前より、大会打ち切りは噂されていたんです。毎日500名超を送り出し、真夜中にエイドや収容の手配をし、その他われわれの想定していない事態にも対処するスタッフの皆さんの苦労は大変なものでしょう。

2013年、私に焚きつけられた(?)3人の同級生とともに70kmの部に参加。友だちの友だちが年々加わり、賑やかになりました。今年は2人が250kmに初参加です。

5月3日。仕事を徹夜でやって、始発電車に乗って東京駅に行きました。無計画な一人旅、新幹線の予約なんてしてません。みんな朝早いね、自由席は長蛇の列です。250kmの選手を応援するために、13時半くらいに山口に集合する予定です。東京駅からデッキに立って本を読み、新幹線を乗り継いで、新大阪から座りました。

北海道や広島から来た6人が集合(Aゼッケンの2人はすでに一晩走っています)、食事と受付のあと、2台の車に分乗して山口県をぐるぐるしました。

あらためてルート図見たら、まあ、すごいわ。今年もどなたかがつくってくださったこのマップ【萩往還250km(平成29年度版)】と同じはずです。距離も長いけど、山口県って坂しかないってくらいアップダウンばかりなのです。睡魔や痛みに苦しむランナーを励まして、戻ってきました。

写真は、立ち寄った千畳敷。昨年、ここへ至る、長い長いアクセルベタ踏み級激坂に心を折られそうになりました。

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さて、自分のことを書きましょう。

3日夜にたっぷり飲んで、4日の午前4時頃起床。

最後はのんびりやろう、とF「歩け歩け35kmの部」には4人がエントリーしていました。先週UTMFを完走した女性1人は風邪気味で、DNS。UTMFを走ってない残り3人には歩く理由がなくなり、きつい上り以外はゆるジョグすることにしました。

今年のFゼッケンはバスで陶芸の村公園に運ばれたのち、萩往還道35kmを南下します。140kmと250kmの部を走ったときは足が終わっていて苦しみ抜いたラスト35kmです。準備ができた人からバラバラにスタートするらしい。我々は250kmのランナーを探したあと、遅めに走り始めました。

佐々並でお弁当をいただいたあと、板堂坂のラストのきつい上りをダッシュしたりします。去年、大腿四頭筋や足裏の痛みで苦悶しながら進んだ、石畳と砂利道の下り道にさしかかると「ガーッとやっつけてやろう」と、スピードをあげました。本来、下りを勇気をもって進むのは好きなんです。走ると、あっという間に終わりました。去年の自分の仇をとった気分でスッキリしました。

そういえば、上りも下りも息があまり上がらなかったな。最近の短いダッシュが効いている効果だったらいいなあ。

ゴール後は車で移動し、板堂峠でランナーを応援。とくに白昼夢を見ているAゼッケンの選手に声をかけていると、眠りながら歩く同級生Nが登場。彼の顔の前で両手をパチンと叩くと、目を開けました。妙なことばかり話します。いい夢見てたな。

改めてゴールに戻り、みんなを迎えました。知り合いがどんどんやってくる。Bゼッケン、Cゼッケンも、彼らの限界に挑戦したのでしょう、涙を浮かべている人がいます。ふらふらしながらNも無事ゴールしました。ほっ。

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 250kmをリタイアしたI、140kmをリタイアしたKさん、70kmを走ったMなど睡眠は足りているので、宴会は盛り上がりました。Nは寝てました。前日知り合った別グループに入れてもらってまた飲んで、夜は更けて……。翌朝、広島に戻り、また飲みました。^^

本来、スタッフ全員にお礼を言いたかったのですが、かなわず。ここで申し上げます。

みなさんのご苦労のおかげで、毎年楽しく過ごせました。ほんとうに感謝しています! ありがとうございました。

……来年からゴールデンウイークをどう過ごそうかなあ。

ランニングにもリベラルアーツや学際性を。

 リベラルアーツについて情報を集めるんてすが、人により定義があやふやです。
 ギリシャ・ローマ時代、神学や哲学の下に「自由七科」(文法学、修辞学、論理学と、算術学、幾何学、天文学、音楽)ができた。人を自由にするための学問であった、ということまではだいたいみんな共通しています。
 日本の大学でいうところの一般教養という方もありますが、違うんじゃないかなあ。

 以下は、私の独断かもしれません。ご注意ください。
 リベラルアーツは世界を識るための基礎です。宇宙をふくめ神の創造した世界や、社会や人間を──ひとことでいえば「真理」を──追究するための土台なのです。
 ヨーロッパには中世に大学ができました。学問は深化し、細分化されます。上位にあるのはむろん神学や哲学です。ところが、コペルニクスやガリレオの出現により神学が揺らぎました。のちにいろんな哲学者が学問分野の再構築を試みたり、フランス革命や産業革命を経験して新しい学問が生まれたりしました。しかし、リベラルアーツが「真理を識り、人間を自由にするための学問」であることに変わりはなかったのです。
 現代の学問は、森羅万象を体系的にとらえようとする近代合理主義とリベラルアーツがタッグを組むべきなのでしょう。
 日本の明治の知識人、たとえば夏目漱石は漢籍や西洋文学や比較文化に精通し、科学や数学や芸術全般に興味を持っていました。『我が輩は猫である』を読めばわかりますね。
 ところが、日本全体を見れば、明治期にそれぞれの学問を個別に採り入れたさい、学問の根本的な目的を輸入しなかったか軽視したのです。(じつはアジアは専門分化した学問の概念がなく、西周などは細分化された西洋の学問に疑問を持ったと、のちに隠岐さや香・著『文系と理系はなぜ分かれたのか』で教わりました)
 細分化された専門分野を横断することを「学際」と言います。大学で法律や経済や文学を学んでも専門分野同士で連絡しないと、いわゆる専門バカになってしまいます。だから「すみません、文系なので」という言い訳が口をつく。実学を重んじる人は芸術を虚学と馬鹿にし、創作物を鏡にして内省する作業をしない。受験生は、就職にいい学部はどこか、なんてことばかり考える。大学は金儲けを学ぶところではないのに。
 先進医療に倫理が必要だとか言われますが、そもそも世界の真理を識るために勉強してないのだから、学問を自由に横断して考えることができません。文学者で医師であった森鷗外は「高瀬舟」を書きましたけどね。
 今の日本、金持ちばかり潤い、貧困層が圧迫されています。それを解決する道もリベラルアーツと学際性しかないのです。しかし、いちじるしく論理性が欠如している現政権にはいくら説明しても無駄です。かててくわえて彼らは、人文科学や基礎学問をないがしろにしています。「学問がなんたるか」のいちばん遠いところにいる連中です。
 今世紀になってヒットしたジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』が面白いのは、それらが学問の垣根を自由に飛び越えて得られた精華だからです。そうした著作が日本から生まれることがあるでしょうか。

 
 おっと、ここはランニングに関するブログでした。
 

 私が中高生のころ、体育の先生でさえ運動理論を理解していなかったのです。速筋・遅筋なんてことさえ知らず、科学より根性論・精神論が優位でした。
 図書館や書店を見回してもランニング関係の一般書なんてなかった。プロやハイアマチュアの選手も先人の経験論による練習法にしたがいました。非科学的なトレーニングも多かった。ミユキ野球教室ではジャイアンツの選手もウサギ跳びをしていました。小学生のとき、われわれもウサギ跳びをさせられました。炎天下の運動会の練習では2時間ぶっつづけで給水を禁じられました(しかも行進や器械体操など、やっていたのは赤組・白組の競い以外の演目でした)。
 ところが、時代は変わったのです。
 21世紀の今、書店を覗けば、運動生理学や、スポーツバイオメカニクスによるフォーム解析、栄養学など、さまざまな知見が溢れています。『BORN TO RUN』でも紹介されたダニエル・E・リーバーマンの研究を見れば、持久走は人類学、生物学と無関係ではなさそうです。マラソンや駅伝はスポーツビジネス、ジョギングは予防医学などの面でも語られ得るでしょう。フォームのことを考察するなら、骨格や筋肉の知識が必要です。人がなぜウルトラマラソンに挑戦するのか、なんてことを煎じ詰めれば、形而上学の話にならざるをえません。
 要は、ランニングにもリベラルアーツや学際という概念が必要だと、田中宏暁先生の『ランニングする前に読む本』を読みながらそんなことを考えたのです。

BORN TO RUN 走るために生まれた ウルトラランナーVS人類最強の“走る民族

BORN TO RUN 走るために生まれた ウルトラランナーVS人類最強の“走る民族"

 

インターミッテント・トレーニング

前回のエントリーで、2012年3月に田中宏暁先生と会食した時にこんなことを伺ったと書きました。再掲します。

新しいトレーニング法はありませんかと訊ねると、まだ仮説段階だと前置きしてひとつ教えてくださいました。1〜2キロ走れるスピードで1分走り、完全に4〜5分休養するのを繰り返すことが効果的ではないか。ただ、本数は聞き漏らしました》

「ランニングマガジン クリール」2013年3月号 に田中先生が新しい練習法を紹介されています。記事のタイトルは「田中宏暁教授の最新マラソン練習インターミッテント・トレーニング 1分間走で走りが変わる」。インターミッテントとは間欠的・断続的という意味です。拝読すると、会食したさいに教わった練習法だとわかりました。

目的はミトコンドリアの活性化です。細胞の中の小器官ミトコンドリアは、酸素を取りこんでエネルギーを作り出す「エネルギー製造工場」。ミトコンドリアに刺激を与えると、細胞内で数が増えたり、一つ一つの機能が高まる。多くのエネルギーを作り出すことができれば、それだけ有酸素運動の能力が高まります。

順を追って書きます。
           ★
① 炭水化物が分解されるとグリコーゲンというエネルギー源が蓄えられる。
② グリコーゲンが消費されると、それにくっついていたタンパク質AMPキナーゼがフリーになる。
③ AMPキナーゼは、PGC-1αという遺伝子の発現を促進する。
④ PGC-1αが引き金になり、ミトコンドリアのもろもろの遺伝子が起きてきて、ミトコンドリアの機能が高まる。
           ★
田中先生は「ミトコンドリアの機能を高めるためには、簡単にいってしまえば、グリコーゲンが枯渇した状態をつくり出せればいいのです」と書かれ、次の二つの練習法を挙げています。


◆(全力30秒ダッシュ+4〜5分つなぎ)レスト挟み計4本

全力30秒ダッシュを2本やると、グリコーゲンの量が64%になる。

このあと、乳酸が溜まり血液が酸性に傾くと、グリコーゲンの分解を制御しているPFKという酵素が抑制されてしまう。グリコーゲンが使えなくなってしまうため、30分〜1時間軽い運動でつなぐ(休息よりも、軽い運動で乳酸を使う)。

ふたたび30秒ダッシュ2本。これでグリコーゲン量は41%まで下がる。

過去の著書では坂道30秒×5本を推奨されていました。この方法はその進化型なのでしょう。


◆インターミッテント・トレ
(Vo2max60秒+4分つなぎ)

最大酸素摂取量の100%の強度で1分間走り、ゆっくりジョグで4分間つなぐ。これを12〜15本。

最大酸素摂取量は2000〜3000mを全力で走るくらいのペースと書かれています。

インターミッテント・トレーニングの目安のペースが表になっています。

それを元に、1分間で進む距離を私が計算してみました。

フル ハーフ 3000m ペース  距離
4時間50分 2時間21分 18分00秒 6:00/km 167m
4時間30分 2時間10分 16分30秒 5:30/km 181m
4時間00分 1時間56分 14分40秒 4:40/km 214m
3時間45分 1時間48分 13分45秒 4:35/km 218m
3時間30分 1時間40分 12分40秒 4:10/km 240m
3時間15分 1時間33分 11分45秒 3:55/km 255m
3時間00分 1時間25分 10分47秒 3:35/km 279m

《走るペースにもよりますが、1000mのうちの200〜300mを疾走して、700〜800mをジョグでつなぐというパターンが実践しやすいでしょう》とあります。

1,000m5分回し、との仰せですが、先生、無理です。どのクラスでも平均5:00/km(サブ3.5ペース)の12〜15km走という計算になっちゃうもの。たとえぱサブ4目標の人が4分40秒ペースで218mを走ったあと、782mを4分でつないだら5:06/km。レースペースを遙かに上回っているのでリカバリーになりません。

緩走期はもっとゆっくり(6:00/km〜8:00/km)ペースで5分まわしか、700mをだらだら走っての1キロまわしか……。そんな感じでやればいいんでしょう。

昨日、インターミッテント・トレーニングのペースをつかむため8本やりました。じつはうろ覚えで、設定を300m1分、700m4分と勘違いしていたため、300mを60〜65秒で走り、700mを4分でつなぎましたが、5:40/kmくらいのつなぎがだんだんきつくなりました。私は1,000mでまわすのはやめ、緩走はもっと遅いジョグにします。

 

その記事で田中先生は、持久走とスピードを磨き、それを融合したスピード持久力をつける従来のマラソントレーニングで、体がどう変わったか証明できる人はないとおっしゃり、《運動刺激と遺伝子という方向からアプローチしていくと、複雑なトレーニングは必要ないことがわかってきたのです》と書かれています。

過去にも、著書『賢く走るフルマラソン』(2005)では、インターバルトレーニングは必要ないが、やるなら、急走1,000mに対し緩走を1,000mにし、馴れたら緩走を500mにせよと書かれていました。『ランニングする前に読む本』(2017)なると、インターバルは、目標タイムの平均スピードで1,000m走り500〜1,000mでつなぐのを5〜10本とお書きになっているのです。ほかの誰よりも強度が低いのが特徴です。

科学者ですから、エビデンスに基づいて発言されているはず。

誰かが実践してみせるべきでは?……え、私?

 

そうですね、先生にお目にかかったとき、私は『賢く走るフルマラソン』を日本一実践してきたと申し上げたのです。

今後も田中先生の理論を実践し、証明するためだけに走ります。

ランニングマガジン courir (クリール) 2013年 03月号 [雑誌]

ランニングマガジン courir (クリール) 2013年 03月号 [雑誌]

 
賢く走るフルマラソン―マラソンは「知恵」のスポーツ

賢く走るフルマラソン―マラソンは「知恵」のスポーツ

 
スロージョギングで人生が変わる (廣済堂健康人新書)

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田中宏暁先生の訃報

【訃報】田中宏暁理事長永眠に関して | 一般社団法人 日本スロージョギング協会

田中宏暁先生が亡くなられたとのこと。ショックを受けています。

私がランを記録するようになったのが2007年。継続的に走るようになったのがそのころなのでしょう。当時、読みあさったランニング入門本には例外なく「踵で着地しましょう」とありました。私は短距離のほうが得意だったせいか、単に股関節が硬いからなのか、いくら練習しても踵着地ができません。「フルマラソンを走ると重大な故障をするのかも……」とビクビクしていました。

田中宏暁先生の『賢く走るフルマラソン』(ランネット)に出合ったのは2010年夏。著者はフルマラソン2時間38分(50歳!)という記録を持つ運動生理学者です。監督でもコーチでも実業団選手でもないマラソンの教則本は当時珍しかった。

私はまずフォアフット着地を推奨していることに驚き、スピード練習はとくに必要ない、というのにまた仰天しました。減量しなさい、という本も初めてでした。車体を軽くすれば速く走れるじゃん、と書いてあるのです。

以後、私はこの本のとおりに練習、紹介されている古典的カーボローディングも実践しました。結果タイムは伸び、フルの記録は3時間9分台まで縮められました。

私は出版界の隅っこに棲息しています。仕事上の縁あって、田中宏暁先生と一度会食しました。

2012年3月、福岡から上京されていた先生ふくめ4人の会食でした。バイブルの著者ですから神さまみたいなものです。私は、『賢く走るフルマラソン』を日本一実践しています、と自己紹介しました。本当にそう思っていましたので。

先生は予防医学、老人介護などの学会やスロージョギングの普及等でご多忙らしく、かなりお疲れのご様子。仕事の話はそこそこに「僕はランナーと話しているときが一番楽しいんだよ」と言われ、私と一対一でずいぶんやりとりしてくださいました。

月間の走行距離を訊ねられたので「月400キロです」と返答すると「400キロっ!?」と驚かれます(当時は結構走っていたんです)。私が「先生の本には月に何キロ走れと書かれてないんです」と不満を言いますと、田中先生は「あの本、具体的な練習計画を書いてないのが欠点と言われるんだよ」と笑い、こう続けられました。「距離を踏むランナーは短い距離とフルの持久係数が小さい。たとえばケニアのランナーと比較して日本人は1万mとフルの開きが少ない。日本の距離信仰はケガのリスクと紙一重だけど、その点だけは長所でしょう」。ちなみに、先生は300kmが目標だけどなかなか到達しないとおっしゃっていました。

その他、うかがったことは……。

クリストファー・マクドゥーガル『BORN TO RUN』の話をすると、「あれ読んだ? いいよね」と先生も激賞。マクドゥーガルと交流ができたと嬉しそうにおっしゃっていました。

『賢く走る〜』には、先生は1年間ケガで走れない時期があったとに書かれています。その間は何もしなかったそうです。休んでもすぐ元通りになるかどうか、実験だったとおっしゃいました。

新しいトレーニング法はありませんかと訊ねると、まだ仮説段階だと前置きしてひとつ教えてくださいました。1〜2キロ走れるスピードで1分走り、完全に4〜5分休養するのを繰り返すことが効果的ではないか。ただ、本数は聞き漏らしました(これについては次回書きます)

同年12月、防府読売マラソンでスタートの列に並んでいたらたまたま隣に田中先生がいらっしゃるではありませんか! 私のことを覚えていてくださり、スタートまで立ち話をしました。LT値から割り出した「これ以上速くなってはいけないペース」が手の甲に書かれていました。まさしく科学者ですね。

私が半年間ひどい足底筋膜炎に悩まされていたと言うと、「休んでなきゃダメじゃない」とおっしゃいます。もう遅い。スタートラインに立ってるんですから。

「スタート5分前にジェルを摂ると効果があるとわかったんだよ」と、先生は11時55分に飲まれます。私があわてて「先生、12時3分スタートだから8分前ですよ」と言うと、「しまった、3分早かった」と苦笑されました。テレビ中継の関係でしょう、防府読売マラソンのスタートは12時ジャストじゃないんです。

ゴール後もお目にかかり、立ち話したのを思い出します

今年、福岡大学を退職され、最終講義をなさったことや、今年も大阪でスロージョギングのイベントをやられるという告知もFacebookで拝見していました。またどこかでお目にかかれないかなあ、と思っていたんです。

残念です。

心よりご冥福をお祈りします。


………………………………
『賢く走るフルマラソン』はランネットのサイトで買えますが、残念ながら編集技術があまりよろしくないのです。

昨年出た『ランニングする前に読む本』(講談社ブルーバックス)はさらに新しい知見が入っています。こちらをお薦めします。

賢く走るフルマラソン―マラソンは「知恵」のスポーツ

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スロージョギングで人生が変わる (廣済堂健康人新書)

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