【訃報】田中宏暁理事長永眠に関して | 一般社団法人 日本スロージョギング協会
田中宏暁先生が亡くなられたとのこと。ショックを受けています。
私がランを記録するようになったのが2007年。継続的に走るようになったのがそのころなのでしょう。当時、読みあさったランニング入門本には例外なく「踵で着地しましょう」とありました。私は短距離のほうが得意だったせいか、単に股関節が硬いからなのか、いくら練習しても踵着地ができません。「フルマラソンを走ると重大な故障をするのかも……」とビクビクしていました。
田中宏暁先生の『賢く走るフルマラソン』(ランネット)に出合ったのは2010年夏。著者はフルマラソン2時間38分(50歳!)という記録を持つ運動生理学者です。監督でもコーチでも実業団選手でもないマラソンの教則本は当時珍しかった。
私はまずフォアフット着地を推奨していることに驚き、スピード練習はとくに必要ない、というのにまた仰天しました。減量しなさい、という本も初めてでした。車体を軽くすれば速く走れるじゃん、と書いてあるのです。
以後、私はこの本のとおりに練習、紹介されている古典的カーボローディングも実践しました。結果タイムは伸び、フルの記録は3時間9分台まで縮められました。
私は出版界の隅っこに棲息しています。仕事上の縁あって、田中宏暁先生と一度会食しました。
2012年3月、福岡から上京されていた先生ふくめ4人の会食でした。バイブルの著者ですから神さまみたいなものです。私は、『賢く走るフルマラソン』を日本一実践しています、と自己紹介しました。本当にそう思っていましたので。
先生は予防医学、老人介護などの学会やスロージョギングの普及等でご多忙らしく、かなりお疲れのご様子。仕事の話はそこそこに「僕はランナーと話しているときが一番楽しいんだよ」と言われ、私と一対一でずいぶんやりとりしてくださいました。
月間の走行距離を訊ねられたので「月400キロです」と返答すると「400キロっ!?」と驚かれます(当時は結構走っていたんです)。私が「先生の本には月に何キロ走れと書かれてないんです」と不満を言いますと、田中先生は「あの本、具体的な練習計画を書いてないのが欠点と言われるんだよ」と笑い、こう続けられました。「距離を踏むランナーは短い距離とフルの持久係数が小さい。たとえばケニアのランナーと比較して日本人は1万mとフルの開きが少ない。日本の距離信仰はケガのリスクと紙一重だけど、その点だけは長所でしょう」。ちなみに、先生は300kmが目標だけどなかなか到達しないとおっしゃっていました。
その他、うかがったことは……。
クリストファー・マクドゥーガル『BORN TO RUN』の話をすると、「あれ読んだ? いいよね」と先生も激賞。マクドゥーガルと交流ができたと嬉しそうにおっしゃっていました。
『賢く走る〜』には、先生は1年間ケガで走れない時期があったとに書かれています。その間は何もしなかったそうです。休んでもすぐ元通りになるかどうか、実験だったとおっしゃいました。
新しいトレーニング法はありませんかと訊ねると、まだ仮説段階だと前置きしてひとつ教えてくださいました。1〜2キロ走れるスピードで1分走り、完全に4〜5分休養するのを繰り返すことが効果的ではないか。ただ、本数は聞き漏らしました(これについては次回書きます)。
同年12月、防府読売マラソンでスタートの列に並んでいたらたまたま隣に田中先生がいらっしゃるではありませんか! 私のことを覚えていてくださり、スタートまで立ち話をしました。LT値から割り出した「これ以上速くなってはいけないペース」が手の甲に書かれていました。まさしく科学者ですね。
私が半年間ひどい足底筋膜炎に悩まされていたと言うと、「休んでなきゃダメじゃない」とおっしゃいます。もう遅い。スタートラインに立ってるんですから。
「スタート5分前にジェルを摂ると効果があるとわかったんだよ」と、先生は11時55分に飲まれます。私があわてて「先生、12時3分スタートだから8分前ですよ」と言うと、「しまった、3分早かった」と苦笑されました。テレビ中継の関係でしょう、防府読売マラソンのスタートは12時ジャストじゃないんです。
ゴール後もお目にかかり、立ち話したのを思い出します。
今年、福岡大学を退職され、最終講義をなさったことや、今年も大阪でスロージョギングのイベントをやられるという告知もFacebookで拝見していました。またどこかでお目にかかれないかなあ、と思っていたんです。
残念です。
心よりご冥福をお祈りします。
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『賢く走るフルマラソン』はランネットのサイトで買えますが、残念ながら編集技術があまりよろしくないのです。
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