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『「本当の豊かさ」はブッシュマンが知っている』

「本当の豊かさ」はブッシュマンが知っている

「本当の豊かさ」はブッシュマンが知っている

 

 『「本当の豊かさ」はブッシュマンが知っている』を読み終えました。

書店の平台で見かけて、買うかどうか迷いました。装丁は安っぽい自己啓発本みたいだし、帯に推薦文を寄せているハラリも世評ほど好きではありません。「本当の豊かさ」をブッシュマンが知っていることはもう知っていますしね。それでも買ったのは、パラパラ立ち読みしたところ、「ヅァウ・トマ」という人物とが登場していたからです

著者スーズマンは文化人類学者で、25年間、サン人であるジュホアン・ブッシュマンと暮らしたとか。すでに狩猟採集生活をやめ、定住地に住んで貨幣経済に巻き込まれた現代のジョホアンについて書いています。ブッシュマン迫害の歴史や、経済の話は参考になりました。動物の足跡を読むときは動物の気持ちに同化する、なんてのも。

ケインズは、2030年あたりで、一人当たりの労働時間は週15時間になるだろうと予測したそうです。でも、日に15時間働く人がいるくらいだもの。どうやらそんな未来は訪れそうにありません。世の中は「進化」しているはずなのに……。

じつは週に十数時間しか働かない生活は未来ではなく過去にあったのです。狩猟採集生活です。かつてその日暮らしで仕合わせに過ごしていたジュホアン・ブッシュマンは、いま、物質文明に放り出されて戸惑っています。

巻末で『カラハリの失われた世界』を大衆小説と断じているのに笑いました。ま、私もドキュメントタッチのフィクションとして読んだんですが。だってとても面白いんですよ。

スーズマンが会ったヅァウ・トマについて書いておきましょう。

1980年ころの話。サン人であるヅァウは、南アフリカ政府の定住化政策により現ナミビア・ニャエニャエ地区に暮らし、小学校のキッチンに勤めていました。ある日彼はスカウトされ映画に出演、アフリカでヒットしたのちアメリカでも火が点き、世界中で公開されました。報酬は1000米ドルでした(監督ジャミー・ユイスは、ヅァウは貨幣を知らないので、ギャラとして牛10頭を贈ったとウソをつきました)が、当時、南ア国防軍に従軍すれば毎月600米ドルがもらえたそうです。

ヅァウが演じたのは、カラハリ砂漠で伝統的な狩猟採集生活を営む男でした。宣伝のさい「彼が最初に見た白人は私である」と監督ユイスが語ったことなどが、人類学者から批判の的になりました。1980年代、白人を知らない狩猟採集民はアフリカにはいなかったのです。アパルトヘイトについても触れられていません。

ヅァウは何本か映画に出たことで金を得ました。狩猟採集民的な平等分配の意識が残る人々たちが金をせびりに来るため彼は砂漠をうろついて姿をくらましたといいます。

映画会社が最初の作品を公開するときに、主演俳優の名前を本来の発音にせず、勝手にニカウと変更しました。

ヅァウは2003年に亡くなりました。