1990年の1月5日未明の話です。当時勤めていた会社の始業式が行われる日でした。その前日、当時よく遊んでいた会社の先輩二人SさんやWとプライベートでガブガブ呑んでいたんです。
マンションの小部屋に帰ってベッドに横たわったのが5日の午前2時くらいでしょうか。夢でも、飲み会の延長でSさんやWさんと遊んでいるうちに、目が覚めました。
私の足もとに誰かが四つん這いになり、おいかかるようにこちらをのぞきこんでいます。私はまだ目がさめきらず、夢に出ていたSさんがふざけているのだろうと、掛け布団の下から足蹴にすると、ふわりと立ち上がります。
あれ、Sさんではないぞ。
古くさい丸眼鏡に坊主頭。白装束を着ていて修行僧のようです。彼は立ち上がると、こちらを無表情で見ながら足もとからすーっとフェードアウトしていきます。彼が消えた先に、昼につるした洗濯物が見え、これは夢じゃないとはっきり気づきました。するってえと、あの、例の、お、お、お……
お化け!?
急に怖くなりました。暗いままだと金縛りになってしまいそうです。部屋の明かりをつけようと体をむりに起こしました。室内灯のヒモが、すぐそこなのにとても遠く感じます。手をのばしながら頭に明滅した考えは……「科学の時代に、お化けなんかいるはずがない」「いや、科学でも証明できないことがある」……
やっと明かりをつけてデジタル時計を見ると、ジャスト5:00。払暁。境界。夜と、朝のあいだに(美川憲一)……いかにも「出そうな時間」だなあ、と私は少し落ち着いて考え、もう一度横たわりました。
朝、ギリギリに起きて始業式に出席しまして、会場を出てから未明の体験を思い出しました。「科学の時代にお化けなんか……うんぬん」という頭のなかの会話が、子ども向け怪奇ドラマの定型文さながらです。我ながらオリジナリティのなさに呆れました。