エド・シーサ著・菅しおり訳『2時間で走る』の感想を書きそびれていました。2度読んだんですけど。
サブタイトルは《フルマラソンの歴史と「サブ2」への挑戦》。圧倒的な強さを誇るアフリカ系ランナーの強さの秘密に迫りつつ人類の夢「サブ2」への展望を書いた一冊。同時に、フルマラソンの歴史について学ぶこともできます。原著『TWO HOURS』は2015年に刊行されたようです。
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著者が主に取材して中心に据えているのは、ジョフリー・ムタイ。2011年のボストンマラソンで2時間3分2秒という驚異的なタイムを出しますが、非公認コースのため世界最高記録には認められなかったあの選手です。
現在、中長距離界を席捲しているのはカレンジン族ら有能なアフリカ系ランナーです。彼らは代々高地に育ち、体型に個人差はあれど、総じてランニングエコノミーの高い、細くて長い脚を持ちます。近年ランナーのプロ化やレース賞金の高騰が進んだことで、一攫千金の夢をみる若者がトレーニングで日々切磋琢磨しているのです(ドーピング疑惑についても書かれています)。DNAに、中長距離に有利な配列があるかどうかはまだ確定していません。
これらは以前読んだ『ケニア! 彼らはなぜ速いのか』などとも共通しますが、本書はもっと多岐にわたる話題を提供してくれます。
たとえば、19世紀には長距離の「歩行競技」が行われていて徐々にマラソン化していったこと。ハイレ・ゲブラシラシエの世界最高記録樹立の戦略、日本に留学しオリンピック北京大会で優勝したのち事故死したサムエル・ワンジルの生涯……などなど。私が大好きな『パーフェクトマイル』ともちょっとだけ重なりました。
サブ2が可能か否かの論争や、どんなコースや条件ならタイムが出るか、という美しい夢想もあり、とにかく盛りだくさんなんです。
空中分解しそうなくらい情報が多いのに、ひとつの物語としてまとまっているのは著者の構成力の高さだと思われます。
それにしても……1908年のオリンピック・ロンドン大会で、ウィンター城をゴールにしたいがために40キロ(25マイル)から42.195キロ(26マイル135ヤード)に延伸された距離の恨めしさといったら! あのまま40キロが標準であれば、私はサブ3をやっているし、すでに人類はサブ2を果たしているのてす。
でもまあ、2.195kmがマラソンのえもいわれぬ魅力なのですよ。
そう考えておきます。
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以下、少し余談を。
ジョフリー・ムタイのフォームです。2011年のニューヨークシティ・マラソンの21マイル地点。著者は本書でこの動画を《効率のいい走り方の見本》として紹介しています。《そのときのムタイは一マイルを四分三一秒という、フルマラソンで二時間を切るペースで走っていた》(13ページ)とか。ムタイの身長は170cmと書かれていますが、国際陸連によれば186cm56kgだそうです。
私が注目するのは、もちろん上体の使い方です。