イヴァン・イリイチ(私はこの表記に統一しています。たぶん)は、脱学校、脱医療、脱道路、シャドウ・ワークなどを唱えていて、未開社会の民族誌を読んできた私はいちいち肯いてきました(たとえば、未開社会には学校も試験もなんにもないのです)。
イリイチは1926年、オーストラリアに生まれたユダヤ人の歴史家・思想家です。カトリックの神父としてラテンアメリカなどで活動します。のちに教会批判をするようになりました。2002年没。
インタビュー嫌いでしたが、本書の編者デイヴィッド・ケイリーには心を許したようで、10章に分けてイリイチの考えが記録されています。韜晦めいた発言が多くてインタビュアー泣かせですが、ケイリーが粘り強く質問してくれていて頭が下がります。『脱学校の社会』や『コンヴィヴィアリティのための道具』、『シャドウ・ワーク』などは入手しやすいので、イリイチの独創に関してはぜひそれらをお読みください。
私が知りたかったのは、彼がなにをきっかけに、現代社会システムの常識を疑うようになったか、でした。普通の人は、「人間の子供は学校に通うもの」「医療が発達するのは人類の進歩だ」は自明のことで、疑問に感じないはずなのです。
本書を読んで、やはりイリイチは──私と同じように──カール・ポランニーなど人類学者からヒントを得ているとわかりました。
ほかにも、アリエス、フロム、シューマッハー、バシュラール、オーウェル(順不同)など、多少なりとも私に影響を与えている学者の名前が出てきます。ミシェル・フーコーについてだけはごにょごにょとごまかしていて、不満でしたけど。
最終章は難解というか、少々納得がいかない部分がありました。いずれ、読み直しましょう。
20世紀の、私を刺激してくれる思想家であることは間違いありません。