狩猟採集民のように走ろう!

狩猟採集民について学びながら、現代社会や人間について考えるブログ

初の女性棋士、誕生なるか?

プロ編入試験がスタート

里見香奈女流五冠のプロ棋士編入試験が本日スタートしました。男性プロ棋士5人と対局して3勝すれば、史上初の女性プロ棋士が誕生します。

羽生善治九段や藤井聡太五冠ら将棋のプロは男性しかいなません。女流棋士と呼ばれる女性は約70名いますが、段位などの規定もプロ棋士とは別です。プロ棋界が女性を門前払いしているわけではありません。下記で説明する奨励会を勝ち上がった女性がいないのです。

細かい例外規定は省略しますが、プロ棋士になるには、5級や6級で奨励会に入会した天才少年少女が鎬をけずって昇級昇段し、三段リーグを半年戦って上位2人になる必要があります。基本的に1年に4人の新人枠しかありません。しかも年齢制限があり、25歳のうちに四段になれなければ、強制的に退会となります。

三段リーグまで進んだ女性は、里見香奈、西山朋佳、中七海の3人。里見は年齢制限で退会、西山は一度次点の3位になりましたが退会、中は現在三段リーグに在籍しています。ちなみに、今期三段リーグには41人が在籍しています。

じつはプロ棋士になるにはもう1つ道があるんです。トップアマやトップ女流棋士の枠をもうけているプロ公式棋戦で一定の成績(最も良いところから見て10勝以上、なおかつ6割5分以上の成績)を挙げた場合、プロ編入試験の受験資格を得られます。里見香奈はこの条件を充たしまして、挑戦しているのです。過去に男性3人がこの試験に合格しました。いずれも、元奨励会三段のトップアマでした。

女流棋界vs.男性プロ棋士

女流棋士制度ができたのは1974年。最初は6人でした。蛸島彰子や山下カズ子らが女流棋戦のトップとプロ棋士との実力差は雲泥の違いがありました。彼女たちの存在は、テレビ対局やイベントの花という位置づけでした。

1980年に女流プロデビューをした林葉直子は女性のなかでは圧倒的に強かったのですが、プロ棋士には敵わずじまいでした。

実力の世界だからしかたない面もあるとはいえ、将棋界では女性の肩身が狭かった。女は論理的思考が不得意だから将棋が弱いなんてことが、40年くらい前は将棋雑誌に平然と書かれていました。升田幸三実力制第四代名人は、十代だった中井広恵に「女は将棋が弱くても抱き心地が良ければいい」と言ったのは有名な話です。

林葉と同世代の中井広恵・清水市代が地道に実力をつけ、1993年、女性として初めて男性プロ棋士に勝利したのは中井でした。1993年、対プロ棋士39局目の快挙でした。以後、勝率は低いものの男性プロ棋士に勝つ女流棋士が複数出て来ました。中井がNHK杯でA級棋士だった青野照市に勝ったのは衝撃的でした。

約半世紀の歴史をもつ女流棋界にとって女性プロ棋士の誕生は悲願でしょう。

ニューロミスに打ち克て

私は女流棋士がなかなか誕生しないのは、ジェンダー(社会的につくられる性差)やニューロミス(神経神話)の問題とともに語れるのではないかと考えているのです。

男脳/女脳なんてテーマの本がときどきベストセラーになります。立ち読みすると、男の脳があなたをなになにさせると書かれていますが、根拠となる論文などは示されていません。

男女の脳が違うという科学的根拠は今現在ないそうです。2007年、経済協力開発機構(OECD)が発表した「脳から見た学習」では、「男女の脳は違う」という説をエセ科学とし、ニューロミス(神経神話)と名づけました。もし仮にちょっと男女差があるとしても「男は女より背が高い」みたいな平均値の話になるんじゃないでしょうか。背の低い男や背の高い女がいるように、個々を見たら、男女とも性差の平均値を飛び越える気がします。

「女は数学ができない」という偏見を人々が内面化すると本当に女性は数学が不得意になるといいます。ジェンダーギャップが少ない国ほど、数学ができたり、地図を読めたり、運転が得意な女性が多いという統計もあるそうです。日本でも、男に加点して合格させていた医学部が批判を受け、男女差をなくしたら女の合格者が男を上回ったというではありませんか。

ジェンダーフリーの考えが若い世代には浸透しはじめているようですが、政治家や企業の役員を見ても、オッサンばかり。日本は「オヤジの背脂チャッチャ社会」(by 橋本治)です。しかし、女性を差別し、男だけで世の中をまわすとすれば、才能ある人の半分を切り捨てていることになります。

里見香奈女流に、差別的な固定観念をぶち壊してほしいのです。人任せですみません。