狩猟採集民のように走ろう!

狩猟採集民について学びながら、現代社会や人間について考えるブログ

ユクスキュル『生物から見た世界』

「花が美しいのは、花粉を運んでくれる蝶や蜂を招くためだ」という文章に何度か出くわしたことがあります。「まさか。花の美醜は人間が評価しているだけで、虫はそんなこと考えてないよな」と思っていました。花の多くが鮮やかな色の花弁をもつのは、茎や葉の緑や土の色とコントラストをつけて虫をおびき寄せるためでしょう。

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ユクスキュル、クリサート『生物から見た世界』(岩波文庫、日高敏隆・羽田節子訳)は、虫や動物の「環世界」について書いた1冊でした。

ヤーコプ・フォン・ユクスキュル(1864〜1944)はエストニア出身の生物学者。研究仲間のゲオルク・クリサートが挿絵を担当しています。『生物から見た世界』の初刊は1934年とのこと。國分功一郎『暇と退屈の倫理学』に出て来て興味を持ったのですが、生物学の古典なんだそうです。岩波文庫版は2005年初版で、私が買った本は28刷でした。

一言でまとめると、虫や動物は人間と同じように世界を認識していない、それぞれ独自の感覚で世界(環世界)を把握して生きている、という内容でした。たとえば、人間は注意して見ると蜘蛛の糸を視認できますが、解像度が低い視力の虫は糸を見分けられないからひっかかってしまう。──もちろん、人間が優れているという話ではありません。念のため。

人間は、1秒に18コマの映写を見せられると動画として認識するそうです。また、1秒に18回皮膚をトントン叩かれると1つの刺激として感じられるそうです。闘魚ベタの場合は1秒に30コマ、カタツムリは1秒に4コマで連続した動画であることを実験で明らかになっているとのこと。つまり、虫や動物によって、瞬間の長さが違うんです。

もちろん、人間一人一人も環世界が違うと言えましょう。

ユクスキュルの話は、世界を認識するとはどういうことか、主観とは何か……という問題につながります。現象学とも親和性が高そうだと検索すると、フッサールやメルロ=ポンティとともに論じられているようです。

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《ミツバチは星型や十字型のような先の開いた形を示す図形に好んで止まり、反対に、炎や正方形のような閉じた形をさけることがわかった》とあります。つまり、咲いた花とつぼみが入り交じった野原にいるミツバチは、星型の(=咲いた)花と丸型のつぼみを見分けているのだそうです。少なくともミツバチにとっては、美しさより形が重要なんですね。