『スマホ脳』を買って後悔

先日、radiko のタイムフリーでTBSラジオ「アシタノカレッジ」を聴きながら歩いていました。アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』の訳者で、スウェーデンで学校の先生をしている久山葉子さんが出演した回です(→TBS公式YouTube)。私は「放射脳」とか「スイーツ脳」とか「◎◎脳」という表現が嫌いで本を買わずにいたんですが、北欧社会には興味があります。

その直後、書店に入ったんです。探していた本がなく、手ぶらで帰るのもなんだかなあと、ラジオを聴いた直後でもあり、つい出来心で『スマホ脳』を購入しました。

うちに帰って本を開いたんですが……えええ?……これは……う〜ん……。

すぐに後悔しました。きちんと立ち読みして買えばよかった。困ったことに、新刊『最高脳』というのも買っちゃったんだよなあ。

《地球上に現れてから99.9%の時間を、人間は狩猟と採集をして暮らしてきた。私たちの脳は、今でも当時の生活様式に最適化されている。脳はこの1万年変化していない──それが現実なのだ。生物学的に見ると、あなたの脳はまだサバンナで暮らしている》は、概ねそうかもね、ですが。

そんな脳の報酬系に作用してスマホ依存になるという指摘がなされています。人をスマホ漬けにしておけばAppleやFacebookなどが儲かるもの。スティーブ・ジョブスやビル・ゲイツが自分たちの子供にスマホやタブレットを持たせなかったという話は(有名だけど)興味深い。SNSに依存している人ほど孤独である、といった記述は大衆の中の孤独を思わせます。少しで良いから運動せよも正しいと感じます。(本書は、ゲーム依存のことはほとんど書かれていません。)

ただ、結論にいたるプロセスがザツ過ぎるんです。たとえば、「AとBというグループに分けて実験したところAのほうがナニナニだった」といった実験結果をもとに話が進むんですが、その実験を誰が行ない、どんな論文に典拠しているのかがわかりません。一般向けの新書としても不誠実です。邦訳するにあたり参考文献を落とした可能性もありますが……。

狩猟採集社会についての記述は間違いだらけです。

・当時の一般的な死因は飢餓、干ばつ、伝染病、出血多量、そして誰かに殺されることだった。今の最も一般的な死因は、心臓血管疾患と癌だ。
・当時の人口の10〜15%は、ほかの人間に殺された。今は、殺人、戦争、内戦など、他の人間に起因する死は死亡者全体の1%にも満たない。(34ページ)

想像してみてくださいよ、100人のうち10人から15人が殺されるギスギスした社会、何十万年単位で存続できるでしょうか。私が読んできた限り、1万年前の生活を続けているといわれる狩猟採集社会に人殺しがないとはいいませんが滅多にありません。人間関係が悪くなれば別の集団に移動すればいいだけです。

飢餓が起きるのは、農耕以降に食べるものが偏ってから、が通説のはずです。狩猟採集生活では、虫だのイモだの、そのへんのものを食べていればいいんです。農耕してない人が干ばつで死ぬだなんて笑います。

狩猟採集生活に殺人が多かったというのは、スティーブン・ピンカーの恣意的な統計に基づくのでしょう(冒頭にピンカーの言葉が引用されています)が、これも参考文献がないのでわかりません。こんな本が日本で50万部売れたってことは怖ろしいことです。ピンカーの説と反論について手っ取り早く知りたい方は、PDFですが、中川朋美・中尾央「人骨から見た暴力と戦争──国外での議論を中心に」(「日本考古学」2017年10月→PDF)をお読みください。

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ごく個人的な感想も書いておきます。

「私のスマホの使い方は世間は違うのかもしれんな」と感じました。パソコンで仕事していることもあり、スマホの用途は、LINE電話、ジョギング中のラジオ、カメラなどです。手許にないと不安になるようなことはなく、半日や1日、部屋のなかで行方不明になることも珍しくありません。電車では本を読みます。私の場合、SNSは「いいね」が欲しくてやっているわけではなく(通知はスマホに表示しないようにしています)、他人様に読まれる体裁ですが、気分的には「自分へのメモ」です。それでも賑やかしになっていて、Facebookの稼ぎのために投稿していることになるのでしょう。

以後、SNSとのつき合い方を考えようかなあ。