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藤井聡太と小学生名人戦

藤井聡太19歳、ついに将棋界のトップに

時間の問題だったのです、藤井聡太竜王の誕生は。それでもまあ、豊島将之を相手に七番勝負を四連勝とは、鮮やかにやり遂げるものです。竜王・王位・叡王・棋聖の四冠を手にしました。

通算勝率も悠々8割を超える藤井四冠は、今年度 40勝7敗 .851 で、対局数、勝数、勝率、連勝でトップです。突出して強い若手棋士が、予選などで実力の差を見せつけて白星を稼ぎ、高勝率をマークすることは間々あることですが、今季の藤井は、タイトル戦はじめ、ほぼトップ棋士としか対局していません。この高勝率は驚異的です。6度戦ったタイトル戦番勝負も全て制しています。

勝率の歴代1位は、六段時代の中原誠が1967年度に樹立した .8545(47勝8敗)です。50年以上破られていない記録を破るかどうかも注目しています。(本日、順位戦B級1組で松尾歩八段と対局中。もし勝てば、.8542です。追記=下記の藤井曲線で勝利しました)

藤井聡太の驚異的な強さ

藤井聡太は少年時代から「読む力」が段違いです。プロ棋士も参加する「詰将棋解答選手権」では小学6年生で初優勝して以来、5連覇(最近2年は中止)。奨励会時代にAIを活用し、読みや作戦の精度を上げてきました。振る舞いも冷静このうえなく、最近は風格さえ感じます。とにかく驚異的なのです。

たとえば、名手▲4一銀(→テレ朝ニュースについて。本年3月23日、竜王戦ランキング戦2組の準決勝、対松尾歩八段戦で指された手です。

藤井三冠の将棋は AmebaTV で生中継されることが多いんです。Ameba や将棋中継アプリでは、AI が割り出した最善手や、有利不利の評価が表示されます。

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局面は、4四にいた角で8八の銀を取った局面です。▲8四飛と相手の飛車を取る一手に見えます。後手は△7八馬と金を取り、この攻め合いはどちらが勝つのか? となるはず。AmebaTV で解説しているプロ棋士たちも▲8四飛以降の展開を予想していましたが、何十億手か考えた AI が示す最善手は▲4一銀のタダ捨てです。

▲4一銀?

プロ棋士は怪訝な顔をしながら大盤解説の駒を動かします。次第に意図がわかってきましたが、口々に「人間は指さないだろう」と言います。子供のころから培ってきた感覚がありますからね。私もそう思って見ていました。

藤井は、1時間30分以上あった持ち時間をふんだんに使って考えます。「藤井さん、▲4一銀を読んでいるのかも」と解説陣がソワソワしてきました……果たせるかな、59分の長考のすえ、藤井が▲4一銀を指し、わたし腰を抜かしました!

何度か、「AI の候補手は人間には浮かばないけど、藤井先生なら指すかもね……指したよ!」というシーン見ました。「藤井が指した手は、AI に4億手読ませたら候補手にも挙がらなかったが、6億手読ませたら突然最善手になった」という事例もあります。

藤井曲線と小学生名人戦

羽生善治九段が若いころ、「羽生マジック」という言葉がありました。明らかに不利なのに粘るうちに混沌とした局面に誘いこみ、ハッとする逆転の一手を放つのです。

藤井四冠は、以前はうっかり逆転負けした将棋もありましたが、だんだん間違えなくなった印象です。王様をがっちり囲わない将棋が多いのも特徴です。そういうのは、攻めと受けの間合いをはかるのが難しいんですが、自分の読みに自信があるのでしょう。桂馬がよく跳ねる気もしています。

将棋界で最近「藤井曲線」という言葉が生まれました。

下の図は、竜王戦第2局▲豊島竜王△藤井三冠(肩書きは当時)の、スマホ用将棋中継アプリによる「AI形勢グラフ」です。先手・豊島竜王から見た勝率の推移(50%が互角)です。30手過ぎて、下方、すなわち藤井側にグラフが振れると、徐々に差がつき、一度も逆転することなく勝ちきったことがわかります。このグラフを藤井曲線と呼ぶようです。たしかに、この手の勝ち方が多い。

誰かが将棋は逆転のゲームだと言いましたが、藤井は、逆転されない正確な将棋を指します。

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絶好調の大谷を見て感じたことをもう一度、小さな声で呟きます。

もしかして完璧なものって案外つまらないのではないか──?

少し前、小学生名人戦が放映されるのをたまたま気づいて録画。さすがに全国優勝を狙う小学生は強いんですが、まだ不安定な部分があります。鋭い手も多いけど、悪手が何度か出てきて、1局に何度か、確実に逆転があります。面白かった。

──いやいや、反省。

そんなことを言うと、藤井四冠の努力に失礼というもの。ただ、こうは申しましょう。大山に升田、中原に米長、谷川に羽生、羽生に森内や佐藤や藤井猛といった個性的なライバルがいたのに、藤井四冠に難敵らしい難敵が存在しないのは困ります。アクの強いキャラならなお良し。奨励会会員よ、ガンバレ!