狩猟採集民のように走ろう!

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今年の夏は涼しくなる……わけではない

競歩の鈴木雄介選手、東京オリンピック辞退

2021年6月22日、競歩の鈴木雄介選手(富士通)が東京オリンピックの代表を辞退すると発表しました。私、ずっと心配しているんです。

2019年の世界陸上ドーハ大会。

女子マラソンは現地時間9月28日0時過ぎにスタート。気温は32度、湿度74%だったそうです。結果、68人中28人が途中棄権。完走率59%。優勝したルース・チェプヌゲティッチ(ケニア)のタイム2時間32分43秒の記録は過去最低。7位・谷本観月選手を指導する天満屋の武冨監督は「2度とこういうレースは走らせたくない。昼やっていたら死人が出たのでは」と言ったそうです。

鈴木雄介選手が出場した男子50km競歩は9月28日23時半スタート、気温31度、湿度74%。46人中18人が棄権。完走率61%。4時間4分で優勝し東京オリンピックの代表に内定した鈴木選手は「50キロ持つか不安だった」と話し、東京五輪のコース変更を訴えました。

この事態に青ざめたIOCが東京ではなく札幌で開催すると10月中旬に発表しました。

2020年3月、新型コロナウイルスの流行で、オリンピックを1年延期となります。8月、鈴木雄介選手は「個人的には正直、助かったという気持ちがある」「慢性疲労のような感じで、思うようなトレーニングができていない。今年に五輪が開催されていたら厳しかった」と発言しました。練習したい気持ちはあるものの、体を動かそうとしてもだるい状態だったといいます。

そして今月、鈴木選手は東京オリンピックを辞退したのです。ドーハの過酷な熱疲労のダメージは2年近く経っても抜けず、十分に歩くことができない日々は1年以上続いたそうです。トレーニングを再開できたのは今春で、まだ強い負荷はかけられない状況と報じられてました。

──鈴木選手のオリンピック辞退を見て「復活を願っています」とか「勇気ある決断です」などと暢気なことを言う人がいますが、それじゃ足りません。私は猛暑のなかでマラソンや競歩をやらせた主催者の暴力的な行為に腹を立てています。以前も書いたように、マラソンと気温の関係に関する研究はさまざまあり、30度以上のレースは行うべきではないというのは一致しているそうです。科学をバカにしないでほしい。

問題は新型コロナだけではない

人間、多くのことを同時に考えられないようです。今はオリンピックと新型コロナ対策のことばかり話題になりますが、真夏の東京の暑さ対策や水質問題が片づいたわけではありません。

東京大会の招致委員会は、「世界一カネのかからないオリンピック」や「アンダーコントロール」など多くのウソをつきました。オリンピックの立候補ファイルにあった《この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である》もそのひとつ。思い出すたびめまいがします。

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解決しなければならないことは山積しているのです。マラソンと競歩こそ札幌に移りましたが、たとえば、暑さに弱いと報じられた馬術の馬の対策は解決したのでしょうか。選手、スタッフ、ボランティア、(観客を入れるなら)観客の熱中症対策は万全ですか。トイレみたいだと言われる東京湾の水質問題が解決したと聞きません。2020年8月に投入されたアサリは笑いをとる以上の働きをしたのでしょうか。朝顔よ、すくすく育っているのかい?

ほかにもたとえば、小学生を観戦させる計画について──

小池晃議員のツイートを見ると、7月21日はサッカーを17時半から22時半まで5時間(2試合ですね)観戦するとありますが、テロ対策だかで水筒は持ち込めず、ペットボトル1本が支給されるだけという話もあります。22時半からみんな帰れるんでしょうか。8月6日と7日はは14時半から6時間も近代五種を見るとあります。食事はどうするんでしょう。

儲かる人が儲かるだけ儲かりますように

「アスリートに敬意がない。多くのお偉方がここで世界選手権をすることを決めたのだろうが、彼らはおそらく今、涼しい場所で寝ているんだろう」

ドーハ陸上世界選手権の女子マラソンに出場したベラルーシのボルハ・マズロナク選手がBBCに語ったこのセリフが、IOCをしてマラソンと競歩を東京から札幌に移させたという報道もありました。

小池百合子都知事は、熱くならないアスファルトやミストシャワーをかけるとか雪を降らせるとか朝顔を置くとか変な笠をかぶるとか、わけのわからないことを言って、マラソンや競歩を「東京でやる」と言い張っていたんです。

いつからオリンピックはこんな非人道的で狂ったことになったのでしょうか。

テレビの生中継が始まったあたりから、スポーツは金になると誰かが気づいてしまったんですね。オリンピックが商業化したのは、開会式でロケット人間が飛び回った1984年ロサンゼルスオリンピックでした。いまやスター選手には何億円もの年俸をもらったり大企業とスポンサー契約を結んだりするのです。同時にアメリカの放映料など大きな利権が生まれ、アメリカの都合で盛夏に開かれることになり、選手や観戦者の健康が軽視されていきました。

6月22日、丸川珠代大臣が会場で酒を売るかどうかについて、「大会の性質上、ステークホルダー(利害関係者。この場合はアサヒビール)の存在がどうしてもある。組織委員会としては、そのことを念頭において検討されると思う」と言って炎上しました。いや、本当のことを言っただけなんですけどね。儲かる人が儲かるだけ儲かりますように──です。科学も人情もありません。

今回のオリンピック・パラリンピックはさまざまな虚飾をはぎとられ、欲望ばかりが剝き出しになった気がします。

──オリンピックまであと23日。