狩猟採集民のように走ろう!

狩猟採集民について学びながら、現代社会や人間について考えるブログ

糖質制限とガン

このあいだ、SNS上で同世代の女性友だちから聞いた話です。彼女はコロナ自粛により太ってしまったので糖質制限をはじめたところ数ヶ月で体重が目標体重まで落ちたそうです。意外にも安倍前首相と同じ持病が軽くなったとか。さらに続けるといいます。

糖質制限派は、糖質が体内の炎症の原因だから、制限すればいろんな病気の予防になると主張します。贔屓の引き倒しかもしれません。とはいえ、炭水化物(食物繊維+糖質)は食事性炎症指数(DII)が高いらしい。西洋の研究から割り出したDIIは日本人に合わないという報告もあり一筋縄でいきませんが、上記の女性の例もありますし、今後の研究を待ちたいと思います。

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私が狩猟採集生活に興味をもったきっかけはいくつかあります。何度か引用したダニエル・E・リーバーマン『人体六〇〇万年史』(上)の次の文章は衝撃的でした。

(略)先進国の高齢者の死亡や障害の原因となっている非感染症の病気のほとんどは狩猟採集民の中高齢者にはまったく見られないか、見られたとしてもかなり珍しいことがわかっている。もちろん調査の数が限られているとはいえ、とりあえず報告されているかぎり狩猟採集民のなかで2型糖尿病や冠状動脈性心疾患高血圧骨粗鬆症、乳がん喘息肝疾患を患っている人は皆無に近い。さらに言えば痛風近視虫歯難聴扁平足といったありふれた軽い疾患に悩まされている人もほとんどいないように思われる(ハヤカワ・ノンフィクション文庫版『人体六〇〇万年史』下巻112ページ、太字は引用者による)

アザラシや魚などばかり食べていた時代のイヌイットも、現代病とは無縁だったと言われます。西洋の食事が入ってから、ガンなどが見られるようになったとのこと。

交易をしなかった原始的な狩猟採集民が食べる炭水化物は塊茎と果物くらいです。いずれも品種改良されていないので糖度は低いそうです。たまに見つける蜂蜜は大好物です。そういえば、甘いもの好きが農業転換の理由だと夏井睦さんは書いていました。

ともかく、何百万年も狩猟採集生活していた人間はそもそも低糖質食に適した身体をしています。熱したデンプンや砂糖が人間の硬くて丈夫な歯のエナメル質を溶かして虫歯にするのを見るだけでも、糖質が身体にマッチしていないとわかります。

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近年、糖質とガンの関係が研究されているそうです。

既述のとおり、ガンが少ない狩猟採集民は低糖質生活をしていました。また、小児の難治性てんかんに有効性のある低糖質食をで治療していたら、たまたま腫瘍があった子の患部が小さくなった例があるそうです。

日本では大阪大学がステージ4のガン患者に3ヶ月間ケトン食を食べてもらう臨床実験をしています。ケトン食とは、高脂肪・低脂肪食のことです。低糖質食だと体内の糖が減ります。すると、脂肪が分解されてケトン体が発生し、糖の代わりにエネルギー源となるのです。もちろん実験に参加する人はケトン食に自ら協力するという患者の方(途中でやめる人もいます)で、通常の治療も続けています。現段階で、寛解した人や亡くなる前のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が高まったという例が報告されています。

まだエビデンスレベルとしては低いし、ガンと糖質の関係のメカニズムが科学的に立証されるまでは仮説に過ぎませんが、これからも注目していきたい実験です。

肥満だけでなくガンを患う人に、それとなく糖質制限をすすめることがあります。もちろん上記研究は仮説段階ですし、押しつける気はありません。そんな仮説もあるらしいよ、くらいのニュアンスで話すんです。先方が「闘病はつらいから食べるくらい好きにさせて」といえば、もちろんそこで終了です。