狩猟採集民のように走ろう!

狩猟採集民について学びながら、現代社会や人間について考えるブログ

岡檀『生き心地の良い町』

f:id:mugibatake40ro:20200820180807j:plain

岡檀(おか・まゆみ)著『生き心地の良い町』を読了。少し前に書いた『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』は、岡氏の研究から割り出された「自殺希少地域」を旅する本でした。

生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある

生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある

  • 作者:岡 檀
  • 発売日: 2013/07/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

本では後半に明らかにされますが、研究法が素晴らしい。平成の大合併前の「旧」3318市区町村の30年間にわたるデータを集め、世代ごとに標準化し、自殺者の少ない地域・多い地域を割り出します。相当な手間がかかっているはずです。次に、地図会社とタッグを組み、森などを差し引いた可住地人口密度や可住地傾斜度などを調査し、自殺者の少ない地域の特徴を探るのです。自殺率は標高とはさほど関係ありませんが、傾斜がきつい土地ほど高くなる傾向にあるそうです。

岡氏は、もっとも自殺率の低い地域ベスト10のうち、ゆいいつ島ではない徳島県(旧)海部町に行き、社会の特質をフィールドワークします。

たとえば、海部町には「朋輩組」と呼ばれる相互扶助組織があります。その組織に上下関係はなく入退会に制限がありません。女性も入れるそうです。類似の組織のなかでは例外的なことだそうです。また、海部町では選挙で組織票を頼まれることもありません。「人に強制するのは野暮だ」と言われます。

町では『「病」は市に出せ』という意識が共有されていて、鬱になった人はそれを隠さないそうです。だから、「自分は鬱かも」と感じたら人に相談したり病院に行きます。市に出す「病」は病気とは限りません。借金でもなんでも、トラブル全般どんどんみんなに公開して善後策を得よ、という教えらしい。

一方で、著者は自殺率が高い同県のA町を訪ね、アンケートや現地調査をすることで対比を浮き彫りにし、海部町の五つの「自殺予防因子」を見いだしています。

みんなが多様性を重んじたり、(同調圧力をかけず)ゆるくつながる海部町民の性質は歴史によって形成されたと岡氏は推察しています。数百年前、町に大勢の人々が流入してきました。彼らを排除するのではなく、うまく付き合うにはどうすればいいか、町全体が存続するシステムを、時間をかけて築いてきたのでしょう。

研究によって得られたことを、ほかの町でどのように活かしていくか……については終章に書かれていました。

私が鬱状態だった20年ほど前、相当追い詰められるまで我慢しました。一歩踏み間違うと奈落の底に落ちる険しい尾根道を歩いている気分でしたけど、いまは元気に仕事して走ってます。鬱はしんどいんです。身近な人が自殺するのも悲しいものです。海部町の事例を参考に、よりよい社会を目指したい……。

ところで、岡檀さんや森川すいめいさんが狩猟採集社会のフィールドワークを読まれるとどう感じるか、とても興味があります。自殺希少地域の特長と共通する点が多いと思うのです。