狩猟採集民のように走ろう!

狩猟採集民について学びながら、現代社会や人間について考えるブログ

「はじめ人間ギャートルズ」最終回と「人間不平等起源論」

アニメ「はじめ人間ギャートルズ」(原作・園山俊二)は1974年10月5日から1976年3月27日まで放映されたそうです。面白かったり退屈だったり、不思議な味わいでしたが、今思えば狩猟採集生活を好意的に描いていたのだと感じます。かつて、映画や漫画に出てくる先史時代はムキムキ男が君臨する階級社会でしたから。

狩猟採集生活は、平和で、労働時間が短く、平等分配社会だと言われます。このアニメには石の硬貨や象形文字らしきものが出たりしますが、そこはご愛敬です。

ひとまず、ルソー『人間不平等起源論』の引用をお読みください。

ある広さの土地に囲いを作って、これはわたしのものだと宣言することを思いつき、それを信じてしまうほど素朴な人々をみいだした最初の人こそ、市民社会を創設した人なのである。そのときに、杭を引き抜き、溝を埋め、同胞たちに「この詐欺師の言うことに耳を貸すな。果実はみんなのものだし、土地は誰のものでもない。それを忘れたら、お前たちの身の破滅だ」と叫ぶ人がいたとしたら、人類はどれほど多くの犯罪、戦争、殺戮を免れることができただろう。どれほど多くの惨事と災厄を免れることができただろう。 

アニメ最終回「やつらの足音が聞こえた!の巻」(脚本・福富博)は、幼い私にある種の感動を与えたらしく、わりと覚えていたんです。あれはルソーの『人間不平等起源論』を下敷きにしたんじゃないかと、AmazonPrimeビデオで購入して昨晩見直しますと、果たせるかな、私の記憶以上に、ルソーなのでした。

最終回では──。(完全にネタバレです)

ある日、ギャートルズ平原にブンメーという男がやってきて、土地を自分のものだと主張、囲いをつくりました。ブンメーはゴリラを使い、土地を耕して種を播き始めます。ゴンの父ちゃんはブンメーに文句を言います。
父ちゃん「この平原はな、誰のものでもないんだ」
ブンメー「その通り。だから余が最初に名乗りを上げたんだ。今まで誰も自分のものだと言わなかっただけじゃ。今日からは余のものじゃ」
父ちゃん「そんな勝手な……」
ブンメー「それじゃあ、お前の住んでいる家は誰のものじゃ?」
父ちゃん「そりゃあ、わしの……」
ブンメー「誰が決めた?」
父ちゃん「………」

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昼間、ブンメーは畑の真ん中に建てた高い櫓からゴリラを監視。ブンメーが寝ているあいだもゴリラの労働者たちは徹夜で働き、囲いを拡大させていきます。

はじめ人間には彼らのやっていることが理解できません。「タガヤス」とか「シューカク」というブンメーの言葉はちんぷんかんぷんです。

夏。ブンメーはゴリラたちに言います。「さあ、者どもよ、暑さがなんだ。見よこの広大な大地を。やがてこの大地に満ちあふれる実りが訪れる。そのとき、そのときこそお前らはより一歩文明に近づくのじゃ。餓えの心配もなくいつまでも豊かに暮らせるのじゃ。ガハハハハ……ただしこのブンメーさまの命ずるまま働けばの話じゃがな。ワハハハハ」

はじめ人間たちは価値観の違う新参者を追い出そうとしますが、ブンメーに説得されて戦うのをやめます。秋まで手下となって働き、シューカクを待つと決めたのです。サル酒以上の酒を飲めませてもらえるらしいしね(麦酒?)。

ゴンやピー子ちゃんは抵抗します。

ゴン「あんなやつの言いなりになるのはイヤだよ。ぼくたちははじめ人間なんだ。(見る限り穀物だらけで)地平線も見えないこんな狭いとこ、ぼくはイヤだ」
ピー子ちゃん「ゴンの言うとおりよ。あんな高いところから見張られて窮屈な生活するなんて、わたしはイヤ
反対するふたりを説得したのは長老でした。秋を待て、と長老は言います。

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やっと秋。麦が実り、いよいよ明日収穫という日に、渡りマンモスの大群がやってきました。最初に気づいたのは長老です。コツコツ畑仕事に励んでいたはじめ人間たちは目を醒ましたようにマンモスの群れに立ち向かいます。ゴンも長老とピー子ちゃんに送り出され、勇敢に石斧をふるいました。マンモスは柵を破り麦を踏み荒らし、櫓を壊します。転落したブンメーは気を失いました。

はじめ人間たちは何頭ものマンモスたちを倒し、ご満悦。父ちゃんは、これが自分たちのシューカクだ、と気づきます。

穀物が踏みつぶされた平原に地平線が見えました。

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見終わってもう一度ルソーの文章を読んで下さい。そっくりです。ピー子ちゃんの「あんな高いところから見張られて窮屈な生活するなんて私はイヤ」というセリフも農耕革命以後の不平等な階級社会を指摘しているようで、胸に響きます。 

ゴンたちの選択はひとまず正しかったように感じます。狩猟採集生活には所有という概念がありません。歴史的にはいくつかの段階がありますが、定住や農耕を始めるようになるに従い、人口が爆発的に増え、戦争が始まり、貧富の差ができ、階級が生じ、人獣共通感染症が生まれました。