むかしは「快適な家で好きなモノや家具に囲まれていたい」と思っていたんですけど、東日本大震災で、そうした欲求が文字通り足もとからガラガラ崩れ去りました。以来、ずっと感じていた人間社会に対するぼんやりした不満が、狩猟採集民のレポートを読んで像を結びました。未だに大昔の暮らしを続ける遊動的は人びとはモノを持たない「その日暮らし」で平等分配社会。鬱も自殺もなく、戦いません。ところが、現代の文明社会は一見進歩したように見えて、不幸を抱え込んでいるのです。
理想は未来ではなく過去にありました。
では、現代人が人間本来の社会や幸福を取り戻すためになにをすべきでしょう?……暫定的に浮かぶ方策は、政治的に行動するか、脱出するか、です。脱出には(妻がいるから私はできないけど)路上生活も含まれます。
驚くことに、私より13歳も年下で、同じことに10年前に気づき、路上生活をも研究している人がいました。彼は同じ都会で暮らしながら、別の街(別のレイヤー)をたくましく生きる人たちを見て、いろんなことを疑っていきます。
その人・坂口恭平(1978年生まれ)が昔から不思議に思っていたこと、そして私もいま不思議に感じることをいくつか列挙します。
- ほかの動物と違い、なぜ人間は金がないと生きられないのか。
- 毎月の家賃は、なぜ大地にではなく大家に払うのか。
- 投機目的で土地を売買してはならないと土地基本法にあるのに、なぜ不動産屋は捕まらないのか。
- 憲法に生存権が認められているのになぜ路上生活者がいるのか。
- 2040年には空き家が43%に達すると言われているのに、なぜ新築が建ち続けているのか。
坂口氏の思想書(!)『独立国家のつくりかた』、面白かった。
固定観念にまみれた社会システムを疑い、憲法を無視した国から独立国家を作ろうとします。路上生活者がうまれたり自殺者がいるような国へのアンチテーゼのようです。
彼は《態度経済》なる概念を考案します。単純な貨幣の交換ではなく、ひととひとの交易をそう呼ぶらしい。仲間を集め、それぞれの力を結集して「国家」のネットワークを築いていきます。
坂口氏は聡明で多彩で利他的でバイタリティ溢れるけれども、とはいえ、私が目指す社会は少し違うところにある気もするのです。狩猟採集民の本のみならず坂口氏などの本を鏡にして、私は私の考えを深めてみます。