狩猟採集民のように走ろう!

狩猟採集民について学びながら、現代社会や人間について考えるブログ

『風をつかまえた少年』に感じたブリコラージュ

映画『風をつかまえた少年』(2018年/イギリス・マラウイ合作→公式サイト)を観ました。

じつに素晴らしい作品でした〜。アフリカ・マラウイの実話に基づく物語です。旱魃のため飢饉に苦しむ村を14歳の少年が救います。

主人公カムクワンバ少年は、学費が払えず学校から追い出されましたが、学校の図書室にこっそり通ってエネルギーの本を読み、勉強します。そして、数々の困難に打ち克ち、成功するのです。感動的でした。いい家族、いい仲間たち。前にも書いたけど、勉強って自分を高めつつ、みんなと幸せになるためにするものなんだよね。

私は映画館に向かう電車内で、川田順造「人間の自己家畜化を異文化間で比較する」(尾本惠市編著『人類の自己家畜化と現代』所収)を読んでいたんです。「ブリコラージュ」(Bricolage)という概念の解説と具体例が出てきました。レヴィ=ストロース『野生の思考』は未読ですが、彼が提唱したブリコラージュ自体はいろんな本に出てくるのでいちおう理解しているつもりです。「器用仕事」と訳されたりします。

西洋では設計図にもとづき部品をそろえ、モノを作ります。一方、伝統的な社会では端切れや廃材などありあわせのものを転用して違うものを作るのです。後者をプリコラージュと言います。

たとえるなら、こんな感じかな。

「今日はこの本のレシピ通りにご馳走作るぞ」とスーパーに行って材料やスパイスを揃えて意気込んで作るお父さんと、冷蔵庫の庫内を眺め「これとこれがあるので、あり合わせで作っちゃえ」とササッと料理するお母さん。プリコラージュ的調理法は後者であり、一般的に料理上手と言われるのもそちらではないでしょうか。

川田氏の論考には、西アフリカ大陸では火縄銃や燧石銃の銃身をつくる技術がなく、自動車の廃材からハンドルをささえるハンドル桿を利用した、とありました。また、同地域原産とされるヒョウタンが、盥、各種の容器、食器、柄杓、儀礼具、楽器の共鳴器、浣腸器など広汎に使われている例も挙げています。

『風をつかまえた少年』で、主人公の少年はゴミ捨て場を歩きまわり、廃材を集めます。そして見事なブリコラージュを見せるのです。その点でも感心しました。

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予告編より

映画では全編、風が吹いていました。エネルギー問題についても考えさせられます。地球がある限り、風は吹き、陽は昇ります。おそらく人間が滅びたあとも、風は吹き陽は昇るでしょう。雨も降る。波は寄せる。そういった半永久的なものを利用して暮らしに役立てることもじつはプリコラージュだと思いませんか。