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沢木耕太郎『オリンピア ナチスの森で』

レニ・リーフェンシュタールが監督したベルリン・オリンピックの記録映画『民族の祭典』と『美の祭典』を併せて『オリンピア』と呼びます。私は、NHK(だったかな)やCS放送で何度か見ました。黒澤明がショックを受け、市川崑の東京オリンピック記録映画に影響をあたえたというのも頷けます。プロパガンダ映画とひとことで片づけられない傑作です。

暗くなってからの棒高跳びのシーンなんてどうやって撮ったのか、謎でした。明るいレンズや好感度のフィルムは当時ないでしょうし、競技中の選手に強いライトを浴びせるわけにもいかないし……。後日撮り直したと聞き疑問が氷解、と同時に、記録映画としてもある種の演出や編集があったことを理解しました。

また、私が見た映画にはやや唐突に「前畑ガンバレ」の映像が挿入されていました。女子200m平泳ぎです。なぜ日本語実況まで入っているのか不思議です。「じつは公開する国に合わせて、その国の選手が活躍したシーンを入れたいくつものバージョンがあり、前畑秀子は日本版のみに入った」とのちに聞きました。

きのう、沢木耕太郎『オリンピア ナチスの森で』を読みました。

沢木氏がレニ・リーフェンシュタールのインタビューをした、というのを最近まで知らなかったのです。レニは、2003年に101歳で亡くなります。ほとんど20世紀を生きたのですね。沢木氏が彼女の家を訪ねたのは、彼女が九十代のときでした。

ただ、本書の内容の大半はベルリン・オリンピックの日本選手団の戦いぶりを描くもので、レニのインタビューは冒頭と最後だけでした。とはいえ、ベルリン・オリンピックに参加した多くの人を著者は取材していて、それらもたいへん貴重なものです。

上記に触れた棒高跳びの再撮影のことも詳細に書かれています。前畑秀子の件は配給元の東和商事がニュース・フィルムを『美の祭典』に挿入したとありました。Wikipediaを見ると、世界に16のバージョンがあると書かれていますが、すべて監督による編集もしくは承諾を得た編集なのでしょうか。

最終章で、マラソンの孫基禎選手が一部裏焼きになるなど妙な点がある、と沢木氏がレニに訊ねています。孫選手は日本統治下の朝鮮人で、日本選手として派遣され金メダルを獲得しました。沢木氏のいう裏焼きは、私は全然気づかなかったのですが、マラソンレースの映像にゼッケンのない上半身裸のランナーが映り、「これはイメージカットなのかな」と感じたことを思い出しました。

レニには回想録もあり、そこに記憶違いの記載もあるようですけど、チャンスがあれば読んでみます。

オリンピア ナチスの森で (集英社文庫)

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民族の祭典【淀川長治解説映像付き】 [DVD]

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