裸足ランについて、昨日の続き。

【前回までのあらすじ】
 もともとフォアフット着地しかできなかった麦畑四十郎(仮名・本当は五十郎)は、ひごろ裸足系のシューズ(ビブラム・ファイブフィンガーズ、ルナサンダル、無敵やToe-biなどのランニング用足袋など)を楽しんでいた。公園などでは素足で走ったこともある。自分はすでに裸足ラン愛好者であるような気さえしていた。
 そんな四十郎。一昨日、気まぐれに、初めて舗装路を素足で走ったのである。
 いてててて!
 足裏がヒリヒリと痛むのである。アスファルトは劣化して小石が粒だっていた。数ミリのソールの裸足系シューズでは感じなかったものである。四十郎は自分の足がヤワなこと、裸足系シューズと素足に大きな隔たりがあること、足裏がすぐれたセンサーだということを理解したのであった。

       

【今回はここから】

人体六〇〇万年史──科学が明かす進化・健康・疾病(上) (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

人体六〇〇万年史──科学が明かす進化・健康・疾病(上) (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 
人体六〇〇万年史──科学が明かす進化・健康・疾病(下) (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

人体六〇〇万年史──科学が明かす進化・健康・疾病(下) (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 ダニエル・E・リーバーマンはハーバード大の人類進化生物学教授。
 われわれ人類が何十万、何百万年かけて自然選択のすえ獲得した身体は、500〜600世代前に始まった農業や、20世代前に起きた産業革命以降によって急変した生活に馴染めず、さまざまな不調を抱えることになった、という研究を『人体六〇〇万年史』にまとめています。
 身体と生活の不一致による病気を、リーバーマンはミスマッチ病と名づけました。たとえば、本やテレビやパソコンのモニタを眺めるようになり、人間は近眼を発症するようになったのです。
 現代の狩猟採取民には非感染症がほとんど見られないことから、癌や脳卒中、高血圧や心臓病などもミスマッチ病らしい……など興味深い話題がたくさんあります。
 
 リーバーマンの研究のうち、われわれランナーに一番知られるのは「人間はみな優れたランナーである」というもの。骨格、筋肉、発汗機能などの証拠を示しつつ、人間は走る能力を自然選択した動物であることを突き止めたのです。クリストファー・マクドゥーガルの名著『BORN TO RUN』の思想的支柱になっていました。
 その昔、人間は裸足で移動していたのです。
 何百万年も裸足だった人間の歴史に簡素な履き物が登場したのは4万5千年前、現存する最古の靴は約5,500年前のモカシンらしい。(世界最古の革靴、アルメニアで発見 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト
 ところが、《いまや先進国では靴は履いていて当然のものになっており、そこで裸足でいると、たいてい変わっているとか、不作法とか、不衛生だとみなされる》(文庫版『人体六〇〇万年史』下・235ページ)のです。

私はときどき裸足でランニングすることがある。それを何年も続けているうちに、こんなふうに叫ばれることにすっかり馴れてしまった──「痛くないの?」「犬の糞に気をつけて!」「ガラスを踏まないようにね!」。私がとくにおもしろいと思うのは、犬を散歩させている人からこうした反応が出ることだ。どういうわけか、彼らは犬なら裸足で歩かせたり走らせたりしてもいいけど、それを人間がするのは異常なことだと思っているらしい。(下・234ページ)

  シューズによる進化的ミスマッチは、扁平足、外反母趾、足底筋膜炎、ハンマートゥ、外反母趾、水虫……。本来、快適さを高めるために設計されたシューズが、人間に悪影響を与えるというのです。
 
 さて、本来、裸足で走る人間の着地や足の特徴はどんなものだったのか?
 少なくとも固い路面ではフォアフット着地であったはずです。裸足でヒートストライクすると踵の痛みに耐えられません。
 たとえ踵にクッションの入ったシューズを履いていても、地面に接地した瞬間、膝や腰に強い衝撃がかかることがわかっている……というリーバーマンの研究はよく紹介されるので割愛します。(ググってください。リンクの動画にも出てきます)
 私が注目したのは、下記の部分です。

 (略)靴を履かない人や、ほかの動物の足においては、ケラチンで出てきたたこ(胼胝)がその[引用者注=足裏の皮膚の]保護機能を果たしている。ケラチンというのは柔軟な毛のようなタンパク質で、「角質」とも呼ばれ、サイの角や馬のひづめも、このケラチンでできている。あなたが裸足でいると、あなたの皮膚は自然とたこを形成する。(略)たこより靴底のほうが保護機能に優れているのは疑いないが、厚底の靴には欠点もある。感覚的な認知力(知覚)に限界があるのだ。あなたの足の裏には豊かで広大な神経ネットワークが凝縮されていて、それがあなたの脳に、足元の地面に関するきわめて重要な情報を送るとともに、足の下に何か尖ったもの、平らでないもの、熱い物を感じたとたん、すぐさま反射神経を活性化させて、あなたに怪我をさせないようにする。靴はどんなものであってもこのフィードバックの障害となり、(略)靴下を穿いているだけでも乱される。だから武道家や多くのダンサーやヨガ実践者は裸足でいるのを好み、そうすることで知覚を高めているのだろう。(下・236-267ページ)

  私、たった4キロではありますが、裸足で舗装路を走ることで、足裏センサーの優秀さを体感しました。劣化した路面は小さな石が剝き出しでずっと痛かったけど、より痛いところとマシなところとか、はっかりわかるんです。なんか世界が変わった気分。よい子は真似して、1キロでいいから裸足で走ってみてください。
 まだ足裏が多少ヒリヒリしています。今日はシューズで走りました。だいぶん胼胝ができましたが、これ、削らないほうがいいのかな。